検査機関から見た 日本の食の安全 第3回
カビ毒・自然毒・有害物質・微生物

令和6年度の輸入食品監視指導結果において、残留農薬に次いで違反件数が多かった検査分類が、「有害・有毒物質の含有及び病原微生物による汚染違反」ならびに「微生物に係る規格違反」である。これらは人の健康への影響が大きく、食品衛生行政において優先度の高いリスク管理対象と言える。本稿では、当該違反類型の制度的背景、代表的ハザード、および水際管理の重要性について整理する。

有害・有毒物質
および病原微生物

「有害・有毒物質および病原微生物による汚染違反」とは、食品衛生法第6条(不衛生食品等の販売等の禁止)に基づき、人の健康を損なうおそれのある物質や因子が食品に含まれている、又は付着している場合に適用される違反類型である。主なハザードとしてはアフラトキシン等のカビ毒、シアン化合物などの自然毒、酒精飲料中のメタノール、リステリア・モノサイトゲネス等の病原微生物などがある。これらはいずれも健康影響リスクが高く、輸入時の水際対策が重要な項目と言える。

アフラトキシンとは、カビ(主に Aspergillus flavusAspergillus parasiticus)が産生する強力なカビ毒(マイコトキシン)の一群である。主にB1、B2、G1、G2の4種を合わせて「総アフラトキシン」と呼び、中でもアフラトキシンB1は天然物で最も強力な発がん物資として知られている。輸入食品の水際監視における最重要ハザードの一つであり、ナッツ類、落花生、トウモロコシ、穀類、香辛料、乾燥果実などで検出事例が多い。この毒素は一度産生すると加熱や焙煎、調理などでは分解されにくく、生産、乾燥、輸送、保管のどの段階でも汚染が起こり得るため、コントロールが難しい。日本では食品全般に対して「総アフラトキシン(B1,B2,G1,G2の総和)」として10μg/kg以下と定められており、検疫所が行うモニタリング検査においてこの総アフラトキシンの基準超過が確認された場合、残留農薬などの基準超過違反とは異なり、原則、同一国、同一食品に対して直ちに命令検査へ移行する。

植物性自然毒として代表的なのがシアン化合物である。一部の植物に元々含まれているシアン配糖体は、体内や調理・咀嚼の過程でシアン化水素を生成し、頭痛、めまい、嘔吐などの症状を引き起こす。シアン配糖体を含む植物・食品としてはタピオカの原料であるキャッサバ、杏仁、ビワの種子、フラックスシード(亜麻仁)、ライマ豆などがある。キャッサバはリナマリンというシアン配糖体を含んでいるが、製造加工段階での適切な除毒工程(皮むき・浸漬・発酵・乾燥・十分な加熱)を行うことで安全に喫食できるようになる。キャッサバは熱帯地域で広く栽培されている主食作物であり、「毒抜きをして食べる食品」と言うと驚く方も多いが、日本人になじみのあるウメもシアン配糖体であるアミグダリンを含んでおり、梅干しや梅酒に加工することで食べられるようになる「有毒食材」の一つである。

酒精飲料中のメタノールは、原料である果実や野菜に天然に含まれるペクチンなどが分解される過程で生成する有害物質である。エタノールと共沸するため、蒸留で取り除くことは困難であり、リンゴや洋梨などの果実を原料とする蒸留酒では不可避的に含有するため、最終製品の分析よる含有量の確認が重要な管理手段である。また酒は嗜好品であり、食文化、食習慣の違いもあり、酒類中のメタノール含有量の上限値は国・地域毎に異なる。現地で飲まれている「銘酒」だからと言って直ちに日本の基準に適合しているとは限らない点も注意が必要である。

微生物汚染のリスク

「有害・有毒物質」と並び挙げられるもう一つの「病原微生物」とは、食品を介してヒトに感染・中毒を引き起こし、健康被害を生じさせる微生物を指す。いわゆる「食中毒」の原因となる微生物の汚染による違反である。主な項目としてはサルモネラ属菌、リステリア・モノサイトゲネス、腸管出血性大腸菌(O-157等)、腸炎ビブリオ等が挙げられる。中でもリステリア・モノサイトゲネスは高齢者・妊婦等では重篤化するリスクが高く、低温でも増殖する上、加熱せず喫食するRTE(Ready-To-Eat)食品の増加等もあり、輸出国における衛生管理の影響が大きく、水際でのチェックは欠かせないものとなっている。

病原微生物汚染は少量でも食中毒を引き起こし、広範囲に被害をもたらし、生命にかかわる事態にも及ぶ。突発的かつ重篤な健康被害を発生させうる病原微生物汚染の検査は、日本の食の安全を守る上で最も重要で責任のある守備位置と言えるだろう。

微生物に関してはもう一つ「微生物に係る規格違反」がある。食品衛生法第13条では、食品・添加物について成分規格および製造基準への適合を義務づけている。「微生物に係る規格」とは食品中の特定微生物について、存在の可否や数量の上限を数値で定めたものであり、健康被害(食中毒)の防止と製造・衛生管理水準の担保を目的としたものである。

微生物に係る成分規格が設定されている主な品目は、冷凍食品をはじめ、食肉製品、魚肉練り製品、清涼飲料水、レトルト食品、など多数ある。規格には病原微生物以外に大腸菌群やE.coli、細菌数(一般生菌数)などの衛生指標菌について基準が設定されており、基準を超えたものは「微生物に係る規格違反」として整理されている。この「衛生指標菌」の基準違反は必ずしも=健康被害発生となるわけではないが、加熱や殺菌、温度管理等、製造・保管・運搬工程において衛生的な取り扱いが不十分であったことを示しており、やはり食品衛生法違反とされる。

このように一口に食品衛生法違反といえども、その原因やもたらす結果、リスクの性質は様々である。目に見えない危険を科学的に評価し、水際で確実に排除することは、国際的に食品が流通する現代において、検査機関に課された重要な責務の一つと言えよう。

次回は器具・容器包装・おもちゃに関する食品衛生上の規制について解説する。