半導体競争は「マテリアル時代」へ 世界が注目する華人科学者の成果

近年、半導体は各国の産業競争力を左右する戦略資源となっている。チップ製造やサプライチェーンを巡る競争が激しさを増す一方で、次世代技術の鍵を握るのは製造プロセスだけではない。材料そのものが競争力を左右する「マテリアル時代」が到来しつつある。そうした中、日本の国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)による基礎材料分野での成果が、新たな可能性として世界の注目を集めている。

2026年5月8日、日立財団は公式ホームページ上で、倉田奨励金受領者へのインタビューを公開した。その受領者の中で、NIMS(物質・材料研究機構)の主任研究員である達博博士は唯一の外国人研究者であった。半導体電子ビーム装置分野における同氏の画期的な研究成果は、日立財団によって重点的に紹介された。

倉田奨励金は、日立財団が1967年に創設した日本でも影響力の高い科学賞の一つであり、地球規模の社会課題の解決につながる可能性を持つ中核的研究者を顕彰することを目的としている。長い歴史を持ち、これまで数多くの優れた研究者を支援してきたが、今回、公式のビデオインタビューに招かれた受賞者はわずか8名であり、その一人として達博士が選ばれた。

 ビデオインタビューに応じた達博博士は、「倉田奨励金に採択いただいたことは、私にとって研究者としての大きな転機となりました。これまで私は先端装置に用いられる主要マテリアル研究に取り組んできましたが、その成果を産業分野で採用していただくことは容易ではありませんでした。しかし、倉田奨励金は産業的な価値を明確に見据えた応用研究へと研究を発展させる取り組みを支えてくれました。この支援のおかけで産業界からの関心を得ることができ、企業との連携も生まれました。現在、私の研究成果は、米国最大手の半導体装置企業で実際に活用されています。したがって、私にとって倉田奨励金は、単なる資金支援にとどまらず、研究成果を産業界へと近づけ、社会に貢献するための大きな機会となりました」と語っている。

2025年の「日本科学技術週間」(4月14日~20日)の期間中、日立財団は達博博士の研究成果を、公式に対外発信する唯一の重点研究として選定した。さらに、その研究内容はかながわ経済新聞により特集記事として詳しく取り上げられた。

達博博士は中国科学技術大学を卒業後、2013年にNIMS(物質・材料研究機構)へ入所した。2019年には主任研究員に昇進し、長年にわたりLam ResearchとNIMSによる共同研究プロジェクトの責任者を務めている。

これまでに日立財団の倉田奨励金をはじめ、Lam Researchからの戦略的寄付、さらにNIMSにおける最高栄誉である「理事長賞」を受賞している。また、花王、住友、池谷など複数の日本の財団からも表彰や研究支援を受けてきた。

こうした研究実績は、日本の学術界からも高く評価されている。電子ビーム装置分野の第一人者であり、元日本学術振興会第141分科会委員長、志水隆一氏(大阪大学名誉教授)は、達博博士を自身の研究の流れを継ぐ存在として高く評価している。

かながわ経済新聞の特集記事

現在、半導体チップの製造では、微細な回路パターンを描画するために電子ビーム装置が用いられている。一般的には、複数の大型電磁レンズによって電子ビームの軌道を制御する仕組みが採用されている。しかし、半導体プロセスの微細化が物理的限界に近づくにつれ、従来方式は装置の大型化や処理効率の制約といった課題に直面している。

こうした課題に対し、達博博士は新たな技術アプローチを提案した。円柱対称の回転結晶が持つ特殊な電子作用特性を活用し、「回折電子光学」という新たな研究分野を切り拓いたのである。その発想は、電子ビームを従来の複雑な電磁レンズによって制御するのではなく、結晶材料そのものを利用して高精度な制御を実現しようとするものだ。

言い換えれば、これまで電磁システムが担ってきた役割を、新素材そのものへ移行させる試みである。この研究は、半導体装置の進化が、複雑な機械構造や電磁制御への依存から、材料自体が中核機能を担う「マテリアル主導型」の新たな段階へ移りつつあることを示している。

従来技術と比べ、この研究成果には多くの画期的な利点がある。まず、装置の大幅な小型化が可能になる。巨大な電磁レンズシステムへの依存が不要となるため、将来の電子ビーム装置は現在の大規模な構成から脱却できると期待される。

次に、装置の効率も飛躍的に向上すると期待されている。この技術は、マルチカラム電子ビームリソグラフィ(MEBL)の処理効率を大幅に高める中核技術として、業界内で広く注目されている。MEBLは長年、極端紫外線(EUV)露光装置時代における重要な技術の方向性と位置付けられてきたが、従来のマイクロホールアレイ方式には電子損失が大きく、効率が低いという課題があり、EUVの優位性を覆すには至らなかった。しかし、回折電子光学に基づくこの新たなシステムは、こうしたボトルネックを根本的に解消する可能性があると期待されている。

2026年5月8日に公開された日立財団のインタビューによると、達博博士の関連研究成果は、すでに米国の大手半導体装置メーカーに導入され、実用化されているという。今回、産業化が実現した技術が、インタビューで明らかにされたこの画期的な成果そのものかどうかについては、現時点では確認されていない。とはいえ、この進展を受け、業界では同技術の将来性への期待が高まっている。

物理的な限界に近づきつつある半導体時代において、達博博士は材料イノベーションを通じ、世界のチップ製造に新たな可能性を切り拓いている。