変わらないために、変わり続ける

ちふれといえば、長年親しまれてきた国民的な化粧品ブランドというイメージが強いが、実は生活者のニーズに寄り添いながら、時代に先駆けた取り組みを重ねてきた老舗ブランドでもある。ブランド誕生当初から、化粧品の全成分とその配合量まで公開してきた。日本で化粧品の全成分表示が義務化されたのは、2001年のことである。また、今では当たり前となった詰め替え化粧品も、1974年に発売している。「サステナビリティ」という言葉すら、まだ一般的でなかった時代のことだ。

近年、消費者は成分の透明性や環境に配慮したパッケージ、過剰な消費を避ける姿勢を重視するようになった。先進的に見えるこうした考え方を、ちふれは何十年も前から実践してきたのである。

変わらぬ理念を守りながら、時代に合わせて進化を続けるちふれ化粧品。今年6月、その新社長に野津昌洋氏が就任した。8月、本誌はちふれ化粧品赤坂オフィスを訪問。野津社長へのインタビューを通じて、このブランドに息づく「温故知新」を探った。

暮らしの中で長く
必要とされるブランドへ

―― 御社は幅広い世代の肌の悩みやニーズに応え、消費者にとって「なくてはならない存在」を目指しています。野津社長が考える「なくてはならない存在」とは、具体的にどのようなブランド、企業像でしょうか。

野津 一時的な流行に対応することも、もちろん大切です。ただ、それ以上に、お客様の日々の暮らしの中で長く必要とされるブランドでありたいと考えています。

当社は創業以来、品質の良いものを適正な価格で提供することや、配合している成分を分量まで開示することに取り組んできました。その根底にあるのは、お客様に毎日安心して商品を使っていただきたいという考えです。こうした姿勢は、お客様にもかなり浸透していると感じています。長く使っていただくためには、この考え方が非常に重要です。今後もそこは変えることなく、ものづくりを続けていきたいと思っています。

一方で、お客様のニーズやトレンドは時代とともに変化していきます。大切にしてきた基本的な考え方を守りながら、多様化するニーズに対応していくことが重要です。

当社には「ちふれ」だけではなく、それぞれ異なるコンセプトを持った5つのブランドがあります。それらを通じて、さまざまなお客様のニーズに応えていきたいと考えています。

若年層との接点を広げる

―― これまで30代から50代を中心に支持されてきた御社が、現在、10代から20代の顧客開拓を本格化させている最大の理由は何でしょうか。

野津 日本の人口が減少していく一方で、若い世代の化粧品に対する需要は高まっていると感じています。

最近、子どもを持つ方々と話をすると、「小学生の子どもが休日にはメイクをして出かける」といった話を聞くことがあります。以前に比べ、化粧品を使い始める年齢が若くなっていることを実感しています。

これまで当社は、そうした若年層へのアプローチを十分にできていませんでした。逆に言えば、そこにはまだビジネスチャンスがあると考えています。

特に若い方が化粧品を選ぶ際には、安心・安全という要素も重要です。当社が長年培ってきた安心・安全な品質に触れていただくきっかけを、積極的につくっていきたいと思っています。

ただ、若い方はいろいろなことに興味を持ちますから、一度当社の商品を使っていただいても、その後、ほかのメーカーの商品を使うことも当然あると思います。それでも、いつか「あの時ちふれを使って良かったから、もう一度使ってみよう」と思い出していただきたい。そして最終的には長く使い続けていただける。そうしたブランドになりたいと思っています。

若い感性を
商品開発に生かす

―― 若年層向けの商品を開発する際、長年の経験を持つベテランと、ターゲットに近い若い社員の感性をどのように生かしていますか。

野津 若者向けの商品をつくるプロジェクトですので、上の役職の人を中心にするのではなく、若手を中心に進めています。なるべく若い人たちの意見を取り入れて商品化していこうという考えです。

直近では、企業限定で「チーク プライマー」という商品を数量限定発売しましたが、大きな反響があり、発売後すぐに店頭で売り切れるケースもありました。そうした経験からも、若い人たちの知識や感性を生かすことの重要性を改めて感じています。

一番避けなければならないのは、社員がチャレンジできなくなってしまうことです。チャレンジできる環境をつくることも非常に重要だと思っています。社内でもそうした考えへの理解はかなり進んでおり、全社的にその方向で取り組んでいこうという意思統一ができています。

 

若年層向け新商品の
発売期間を約2カ月へ

―― 御社は若年層向け商品の発売期間を従来の約半年から約2カ月へと大幅に短縮しました。部門横断型の組織を設けることで、意思決定や商品開発のプロセスをどのように変革したのでしょうか。

野津 通常の商品開発では、関連する各部門がそれぞれ検討や判断を行い、それを積み重ねながら開発を進めていきます。

しかし、若年層向けの商品では、トレンドを素早く捉え、スピーディーに対応することが必要です。そこで新商品プロジェクトでは、関連部署の代表者に集まってもらい、一つのチームとして議論する体制をつくりました。

例えば、「どのような商品をつくるのか」「この時期までに発売するためには何が必要なのか」といったことを、各部門がいったん持ち帰って個別に検討するのではなく、その場である程度議論し、判断できるようにしています。部署横断型のプロジェクトチームを立ち上げ、関係者が一緒になって動くことで、商品開発のスピードを高めています。

現在は約2カ月のスパンで商品を発売していますが、さらにスピードを上げられないかという話もしています。そうした意味では、今後さらに競争力を高められるのではないかと思っています。

 

独自性と信頼性で
競争に向き合う

―― 人口減少が進み、海外ブランドとの競争も激しくなる中、今後、日本の化粧品業界はどのように変化していくと見ていますか。また、その中で御社はどのような役割を果たしていきたいと考えますか。

野津 お客様のニーズは、これからさらに多様化していくと思います。また、海外ブランドの日本市場への参入も進んでいますので、競争はより激しくなっていくでしょう。だからこそ、企業としての独自性や信頼性が、これまで以上に重要になると考えています。

若年層市場という点では、韓国ブランドも競合になると思っています。ただ、そこを意識しすぎるのではなく、当社が長い歴史の中でお客様と築き上げてきた価値を生かしながら、トレンドを取り入れた提案をしていくことが重要だと思っています。

昨年から若年層を意識した商品をいろいろと発売していますが、しっかり反響がありますし、若年層のお客様の構成比もかなり増えてきています。これまで積み上げてきた価値を生かしながら取り組んでいけば、しっかり競争していけると考えています。

また最近では、Jビューティーの国際競争力を高めていこうという国の動きもあります。当社も海外事業を展開していますので、そうした動きは追い風になるのではないかと思っています。

取材後記

6月に社長に就任したばかりの野津昌洋氏にとって、今回が就任後初めてのメディア取材だという。

取材で印象的だったのは、新しい取り組みについて語る一方で、これまで会社が積み重ねてきたものを大切にする姿勢だった。若い社員の感性を商品開発に生かすことも、その一つである。世代を問わず、それぞれが持つ経験や力を生かしながら、チャレンジできる環境をつくっていきたいという。

長い歴史を持つ会社のバトンをどう受け継ぎ、そこにどんな新しい価値を重ねていくのか。今後の歩みに注目したい。