1776年7月4日、アメリカは植民地13州がイギリスから主権国家として離脱し、アメリカ独立宣言を採択した。そして独立戦争を経て、1783年パリ条約で正式に主権を勝ち取ったのである。日本では徳川幕府が開かれてから173年後の第10代将軍徳川家治と老中田沼意次の時代であった。
デイヴィッド・グラン(著)倉田真木(訳)『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン―オセージ族
連続怪死事件とFBIの誕生―』ハヤカワ文庫NF、2023年
アメリカの「建国」は、独立後に三権分立や連邦制度などの国家基盤が構築され、1787年にフィラデルフィアで「アメリカ合衆国憲法」が起草、1789年に憲法が発効し、初代大統領ジョージ・ワシントンが就任した1787~1789年までのプロセスのことである。アメリカ合衆国の星条旗は、独立時の13州を示す紅白のストライプと現在の50州の星の数で示される「スター&ストライプス」であり、アメリカの歴史そのものを物語っている。移民の国であり、民主主義と自由を謳った人種の坩堝の国である。
アメリカ大陸の発見は、スペイン女王の支援で1492年10月12日にバハマ諸島に着いたクリストファー・コロンブスによるとされるが、コロンブスはバハマ諸島をインドと勘違いしており、これをきっかけに大航海時代が始まっている。まさにこの時から西洋文明が世界の秩序に変化をもたらしたのである。
しかしアメリカ大陸の最初の発見は、今から約1万5千年前~3万年前の氷河期にアジアから移住したインディアンやエスキモーなど先住民族である。また、ヨーロッパ人として最初にアメリカ大陸に到達したのは、コロンブスより500年前の北欧のヴァイキング(ノルマン人)とされる。そしてイギリスのアメリカ植民地はコロンブスから115年後の1607年のヴァージニア植民地から始まるのである。
その後、アメリカは独立戦争を経て南北戦争、西部開拓時代と突き進むが、先住民であるインディアンとの戦いでは各部族を居留地に追いやり、彼らの土地を収奪してきたのである。
その中に1870年代初頭にカンザスの所有地から、オクラホマ北東部の岩だらけの荒れ地の居留地に追いやられたオセージ族という部族がいた。
この部族をめぐるアメリカ史の暗部に迫る白人の狡猾な犯罪を描いた衝撃のノンフィクションがある。David Grann作の「Killers of the Flower Moon――The Osage Murders and the Birth of the FBI」—(花殺し月の殺人)である。アメリカでベストセラーになり、ロバート・デニーロとディカプリオで映画化もされ大きな反響を呼んだ。
『評決のとき』の作家ジョン・グリシャムは「アメリカ西部史における、陰惨で忘れ去られた一時期を描く心奪われるも物語だ」と絶賛し、ニューヨークタイムズ紙では40週連続ベストセラー、ウオール・ストリート・ジャーナル紙他では年間ベストブック17冠を獲得している話題の書である。
映画『Killers of the flower moon』より
・・・五月、不気味なほど大きな月の下でコヨーテが遠吠えする頃になると、ムラサキツユクサやブラックアイドスーザンといった丈の高い草が、小花にしのび寄り、光と水を奪いとる。小花の首は折れ、花びらは落ち、やがて地に埋もれる。それゆえオセージ族は五月を「花殺しの月」(フラワー・キリング・ムーン)の頃と呼ぶという・・・(文中より)
荒れ果てたオクラホマ州の北、カンザス州との州境の地に追いやられたオセージ族は、荒れ地に突然噴出した黒い水(石油)のオイルマネーで潤い、白人を凌駕する豊かな生活を手に入れる。立派な家を建て、高級車を買い、お洒落な装いで着飾り、まさに資産家の仲間入りを果たすのである。同時に石油採掘の仕事にありつこうと、白人労働者がオイルラッシュの街オデーサに吸い寄せられていた。しかし、白人は狡猾にもインディアン女性たちと結婚を目論み、その一家を次々とクスリ漬けにし、あるいは殺害し、相次いで不審死を遂げる連続殺人事件が起こり、インディアンの資産家一族から資産を収奪していくのである。
通報を受けたワシントンから、のちのFBIの組織となる捜査官が現地入りし犯人を追い詰めていくのだが、映画の最後の場面が凄まじい。ディカプリオ扮する白人男性と恋愛結婚したインディアンの女性が、インスリンとして毒を盛られ、死の一歩手前で一命をとりとめる。裁判で真実を語ったディカプリオ扮する夫に、「あの注射の中身は何だったの。貴方がくれたクスリ・・・」と質問すると、夫は戸惑いながら「インスリンだよ」と答える。その瞬間、夫の嘘と殺意を見抜いた妻は、静かに席を立ち、一言も発することなく黙ってその場に背を向けて立ち去るのである。静かな衝撃的なシーンである。
独立250年を迎えたアメリカは、自らがイギリスの植民地から独立した国家でありながら、先住民を虐殺や白人との混血で同化策をすすめ、豊かな資産を収奪してきた暗部の歴史を有する。今日でもまた、イラン、イラクなどの石油産出国を篭絡していることも見逃せない。日本国もまた、太平洋戦争で負け、広島・長崎の原爆、沖縄、東京大空襲と全土を焼き尽くされ、戦後復興を遂げながら繊維、鉄鋼、自動車等の相次ぐ貿易摩擦、さらには円安、郵政民営化などで日本が豊かになるたびに収奪されてきたことは歴史が証明している。戦後は米軍が駐留し、未だに占領下の隷属国家であることは否定できない。冷戦時代を経て対共産主義と資本主義の覇権争いに組みこまれてきたが、旧ソ連はペレストロイカでロシアとなり、中国は鄧小平以降の改革開放で最先端IT企業国家、世界第二位の経済国家に変じている。
その結果現在は、行き過ぎた自由主義のグローバリズムが世界の秩序を破壊し、貧富の差が拡大している。行き過ぎた物質至上主義、民主主義、利益優先主義が問われている。AIロボットの進化は、人間の未来、人間とは、人生とはという、根源の問題を突きつけている。
「Killers of the Flower Moon」は、人生で最も大切なことは何なのか。人類、人間の根源のあり様を問いかけている。多民族国家のアメリカの内情は複雑だ。トランプの挑戦の一方、ニューヨーク市長には、無名のインド系イスラム教徒のゾーラン・マグダム氏が勝利した。社会主義的左派の登場は、アメリカの社会が建国250年を境に変容する兆しである。米国建国250年に際して、アメリカのみならず世界が全てを見直す機会になることを願わざるを得ない。オデーサ族の妻が見たものは何だったのか。我々はその解を自ら見出さなければならない。コロンブスのアメリカ大陸発見から534年、アメリカ建国から250年。歴史の潮目は変わった。
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