6月13日から14日にかけて「RoBoLeagueロボットサッカーリーグ全国決勝戦」が、湖北省武漢市の光谷デジタル経済産業パークで開催された。試合は、遠隔操作を一切行わない完全自律型で、3対3のフットサル方式で行われた。ロボットは搭載された視覚システムによってフィールドの環境をリアルタイムに認識し、自ら走行ルートを判断する。各チームはパスやシュートを繰り出し、ゴール前の攻防は観客の視線を釘付けにした。
大会を主催したのは、湖北人型ロボットイノベーションセンターである。同センターは、湖北省委員会と省政府が、人型ロボット産業を戦略的に育成し、「新たな質の生産力」の発展を加速するために設立されたイノベーション拠点である。2025年6月4日に光谷デジタル経済産業パーク内で開設され、同年9月3日に運営を開始した。同センターは設立からわずか1年で、家庭や工場、商業施設など多様な利用環境に対応した訓練環境と、多様なロボット機種を備える国内最大規模の人型ロボットイノベーションセンターへと発展した。
レストランシーンでフルーツの盛り合わせを運ぶ訓練を受ける人型ロボット
センターに足を踏み入れると、エントランスにはさまざまな人型ロボットが並び、来訪者を出迎えていた。声をかけると質問に答え、握手を交わし、軽快なダンスまで披露してくれる。
展示ホールには、「湖北製」の人型ロボットが一堂に会していた。
「神農」シリーズは、複雑な地形でも自律的に移動できる高い走破性能を備え、独自開発の関節用モーターモジュールは業界でもトップレベルの性能を誇る。
身長1.8メートルの「労働者」シリーズは、市販されている人型ロボットの中でも最大級の体格と高い出力を備える。「大壮」の愛称で親しまれ、変電所の点検や保守など、高負荷の作業現場での活躍が期待されている。
「天問」シリーズは、独自開発の高性能ロボットハンドを搭載し、卵やミカンのように壊れやすい小さな物体でも正確につかむことができる。
「楚宝」は、人間の歩行や走行動作を模倣するだけでなく、押し倒されても自力で立ち上がり、任務を継続できる優れた運動性能を備える。
「光子」シリーズは、商業施設での案内や接客などのサービス分野を想定して開発された。2025年に開催された第1回世界人型ロボット競技大会では、秦の兵馬俑に扮した9体の「光子」ロボットが1人のダンサーと共演し、団体ダンス部門で初代チャンピオンに輝いた。
「当センター最大の特徴は、研究者、大手企業、業界団体などが一体となり、研究開発、製造、サービスの各分野を結び付け、研究機関や企業、社会に向けてデータやAIモデル、実証環境を共有していることです」と、センターの運営責任者を務める黄全周氏は語る。
同センターは、研究開発から事業化までを一体的に支援するイノベーション拠点として、プラットフォーム、人材育成、金融、産業パーク、実証フィールドなどの機能を集約。現在は、概念実証(PoC)、実証試験、データ蓄積、実証検証の4つの機能を備え、ロボット関連企業15社が入居しているほか、約40社が入居に向けた協議を進めている。
湖北省の人型ロボット産業の急速な発展を支えているのが、充実した産業チェーンだ。展示ホールでは、人型ロボットが頭部、上肢、胴体、多指ハンド、下肢などのユニットごとに分解展示され、その構造を一目で理解できるよう工夫されていた。展示によると、主要部品の多くはすでに湖北省内の企業で生産されている。また、部品供給能力を持つ地元企業も、政府や産業パークの支援を受けながらロボット関連分野への事業転換を進めている。
「私たちは、川上から川下までを網羅する産業エコシステムを構築し、人型ロボットの『湖北で設計・湖北で製造』を実現したいと考えています」と、センターのスタッフは話した。
人型ロボットにリビングの片づけ方をトレーニングする訓練士
スーパーで商品を棚から取り出す。コーヒースタンドでドリンクを淹れる。レストランで注文を受け、料理を運ぶ――。
センター3階には、人型ロボットのためのデータ収集・動作訓練エリアが設けられている。約3,100平方メートルの空間を商業、工業、家庭など5つのゾーンに分け、それぞれ実際の現場を1分の1スケールで再現。数十種類の実証環境の中で、訓練士(ロボットトレーナー)が数百体の人型ロボットに実践的な訓練を行っていた。
訓練環境は実際の現場を忠実に再現しており、作業内容も細部まで作り込まれている。例えばレストランでは、冷蔵庫への食材補充、食器の消毒、テーブルクロスの整頓、紙ナプキンの補充、テーブルや椅子の清掃、椅子の位置の調整、フルーツの盛り付け、販促POPの設置など、20項目以上の作業についてデータを収集し、一つひとつの動作を繰り返し学習させている。
スーパーマーケットの訓練エリアでは、訓練士がロボットの後方からリモコンを操作し、商品を取る動作を学習させていた。ロボットはゆっくりと腕を伸ばして目的の商品に手を伸ばし、指を器用に開閉して商品をつかむ。さらに腕を引き寄せ、商品を買い物かごへ入れるまでの一連の動作を繰り返す。両手首にはカメラが搭載されており、作業中の映像や関節の動きなどのデータは、すべて記録・蓄積されていく。
訓練エリアには、さらに2人の訓練士がいて、彼女たちはVRヘッドセットを装着し、ロボットになりきって清掃作業や棚の整理などの動作をゆっくりと行っていた。スタッフの説明によると、これはモーションキャプチャー技術を活用した訓練方法で、人間の動作を記録してデータ化し、ロボットシステムに入力して模倣学習を行わせ、さらにアルゴリズムを継続的に最適化することで精度を高めていくのだという。
この「実践訓練センター」では、人型ロボットが歩行、把持、運搬といった動作を繰り返し訓練し、毎日2万4000件もの有効なデータを生み出している。各訓練環境で収集されたデータは運営管理システムへ送られ、データアノテーション担当者の審査を受ける。そこで不要なデータは取り除かれ、有用なデータのみを抽出してラベリングを行ったうえでシステムに入力する。こうした工程を何度も繰り返すことで、最終的に人型ロボットにとって有益な「知識」が生成され、それを大規模AIモデルに与えることで、ロボットは関連動作を自律的に行えるようになる。
会場の別の一角には、自律的な意思決定が可能な大規模AIモデルを搭載した数体の人型ロボットが展示されていた。これらのロボットは、これまで蓄積した学習データを基に、物体を自律的に認識してごみを分別したり、急須でお茶を注いだり、毛筆で字を書くといった動作を、熟練者並みの精度で行うことができる。
黄氏は、人型ロボットが実証段階から実用段階へ進むうえでの最大のボトルネックは、データ不足であると指摘する。同センターの年間データ収集能力は1000万件を超えているという。今年1月、同センターは、数千時間分の人型ロボットの訓練データを智元創新(上海)科技股份有限公司に販売した。これは、中国企業間で行われた人型ロボット訓練データの取引として初の事例となった。訓練データの取引・流通を進めることで、人型ロボットメーカーは膨大な訓練コストを削減でき、人型ロボットの商業化と量産化を加速させることができる。
「我々は、人型ロボットを、学生を育てるように、小学生レベルから徐々に大学生レベルに導き、現場で存分に活躍できる能力を身につけさせたいと考えています」と黄氏は語る。2026年5月20日、全国初となる家庭向け汎用人型ロボット「拾光S1」が武漢で発表された。このロボットは、湖北極佳視界ロボット科技有限公司が、湖北人型ロボット産業連盟及び同センターと共同で開発したものである。
家庭シーンは工業シーンよりもはるかに複雑な作業を要する。衣類を畳むという一つの作業をとっても、生地の種類やしわの状態などを識別しなければならない。極佳視界の研究開発担当副責任者である葉雲氏は、センターは早々に、全シーン対応のデータ収集フィールドと動作訓練フィールドを開放し、実機のデバッグ、データ支援、シーン検証など一連のサービスを提供するとともに、産業チェーンの川上・川下企業とも連携しながら技術課題に取り組んでいると説明した。
さらに葉氏は、「我々はセンター内に再現した家庭シーンで10万回を超えるテストを実施し、ロボットがあらかじめ設定されたプログラムを機械的に実行するのではなく、自律的に考え柔軟に対応できるよう、エンボディドAIを最適化しています」と話した。
生産ラインシーンでフラワーアレンジメントを学ぶ人型ロボット
人型ロボットの進化に、訓練士の存在は欠かせない。
現場では、訓練士の斉丹氏が人型ロボットを操作し、ケーキやペットボトルなど異なる材質の物体をつかむ訓練を行っていた。彼女は、「この作業には細心の注意と力加減、それぞれのロボットの特性に合わせた訓練が必要で、単純な動作を何百回、何千回と繰り返すため、忍耐力が求められます。単調な作業ですが、ロボットがより多くの仕事をこなし、進化していくことを思うと、大きなやりがいを感じます」と話した。センターでは、彼女のような多くの若者が、働いたり実習を行ったりしている。近年、センターにはエンボディドAI関連企業が多く入居し、コードを書いたりプログラミングを行う専門人材だけでなく、日々のトレーニングをサポートしたり、マスターデータを管理するスタッフなど多くの人材が必要とされている。同センターでは現在、「三つのフィールドと一つの拠点」の整備を重点的に推進しているという。具体的には、動作訓練フィールド、データ収集フィールド、応用実践フィールド、人材育成拠点である。
人材育成においても、同センターは重要な役割を果たしている。
その代表例が、先日閉幕した「RoBoLeagueロボットサッカーリーグ全国決勝戦」である。大会は「競技を通じて学びを促し、研究を深め、産業の発展を促進する」との理念の下、学生たちは研究室を飛び出し、サッカーの対戦を通してアルゴリズム開発を行い、ソフト・ハードウェアを改良し、チームワーク力を高めるのである。こうした取り組みによって、人型ロボット産業の未来を担う優れた人材を育成し、裾野を広げている。
黄氏によると、ハードウエア設備の面では、同センターは技術デバッグ、アルゴリズム最適化のための実戦環境を提供している。サッカーの対抗戦にはダイナミックな動き、自律判断、リアルタイム操作が求められる。出場チームにとって必要な専門的かつ標準化された研究開発テストの条件が整っている。
技術面では、共同開発した人型ロボット動作大規模モデルや「潜擎」プラットフォームを活用し、軽量かつ効率的な技術支援を提供している。出場チームは、複雑なプログラミングを行うことなく、ロボット動作の反復改良や、アルゴリズムの最適化、複数体ロボットの協調デバッグを迅速に実現できる。資源連携の面でも、同センターはハブとしての役割を存分に発揮している。
一方で、全国の大学から優れた科学技術イノベーションチームや先端研究成果を受け入れて交流を図り、他方で、光谷産業パーク、地元ロボット企業、投融資プラットフォームと連携し、優れた科学技術イノベーションプロジェクトや若手研究開発チームに対し、成果の事業化、起業支援、起業家と投資家のマッチング、地域での事業化に至るまで、包括的なサービスを提供している。
黄氏は次のように語った。「センターは平時より、人材育成システム及びイノベーション創出のための起業支援を基盤として、競技大会を産業人材の育成、技術の実装と結び付けています。これにより、大会で得られた成果を速やかに産業イノベーションの原動力に転化し、全国の人型ロボット分野の科学技術資源を継続的に光谷に呼び込み、地域の人型ロボット産業を、単一技術のブレークスルーから、産業チェーン全体にわたるクラスター発展に展開し、武漢及び湖北省の人型ロボット産業のコアコンピタンスと業界への影響力を高めていきます」。
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