
三重県が実施した県民アンケートの設問が、外国籍職員に対する差別に当たるとして、県の条例に基づく調整委員会がアンケート結果の非公表を答申する方針を固めた。
三重県差別解消調整委員会はこのほど、「外国籍職員の採用を継続すべきか」を問う約1万人規模の県民アンケートについて、設問に誘導性があると判断し、近く、アンケート結果を公表しないよう県に答申する見通しだ。この設問は一見勝之知事の意向を受けて盛り込まれたものであり、知事が提起した方針に関する設問が、県の条例に基づく調整委員会から問題視される異例の事態となった。
発端は昨年12月にさかのぼる。一見知事は、情報漏えい防止を理由に外国籍職員の採用中止を検討する考えを示し、その是非を問う設問を「みえ県民一万人アンケート」に追加した。しかし、調査対象者は選挙人名簿をもとに抽出されたため、回答できたのは日本国籍を持つ県民に限られ、外国籍住民は対象に含まれなかった。結果として、外国人の採用のあり方について、当事者である外国籍住民が直接意見を述べられない形となった。
今年4月には、在日朝鮮人3世の男性が、この設問は外国籍住民を「犯罪予備軍」であるかのように扱うものだとして、条例に基づく申し立てを行った。審議の結果、委員会は、この設問について、外国籍職員を排除しなければ「大変なことが起こる」と県民に印象づけ、不安感をかき立てるおそれがあると判断した。また、回答を一定の方向へ導く「誤導リスク」があり、外国人の公務就任を制限する方向へ世論を誘導しかねないとして、不適切だと指摘した。
今回の本質的な問題は、設問の表現だけではない。一方で県側は、国際情勢の変化を踏まえた情報管理上の懸念について県民の意見を把握するための設問だったと説明している。しかし、少なくともこれまで公表された資料では、県の外国籍職員が実際に情報漏えいした具体的な事例は示されていない。そのような中で、「外国籍」と「情報漏えいのリスク」を結び付け、その是非を県民アンケートで問う手法には問題が残る。行政が安全保障や情報管理について議論すること自体が問題なのではない。問題なのは、国籍そのものをリスクの根拠として扱いかねない設問となっていたことである。
さらに見過ごせないのは、外国人の権利に関わる問題でありながら、その当事者である外国籍住民が回答対象に含まれなかった点である。多数意見は尊重されるべきだが、少数者の権利にかかわる問題を単純な多数意見だけで判断することはできない。そうでなければ、世論調査は民意を把握する手段ではなく、社会に潜む偏見を正当化し、拡大させる手段になりかねない。
三重県条例では、調整委員会の答申を受けて最終的な対応を決めるのは知事である。自ら推進した政策に基づく設問が外国籍職員に対する差別に当たると問題視され、その対応を最終的に自ら決断することになる。皮肉な構図と言わざるを得ない。
今回のアンケート結果は公表されない可能性が高い。しかし、この一件が投げかけた課題は決して小さくない。人手不足を背景に外国人材の受け入れが広がる一方、外国籍であることを情報保全上のリスクと結び付ける議論も表面化している。行政が国政を理由とする漠然とした不安や疑念を制度として固定化しないためにも、人権と安全保障の均衡をいかに保つかが、今後の地方行政に問われることになるだろう。
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