日本の茶業界が「生き残りをかけた戦い」
官民連携で新品種を育成

今なお、茶産業は日本の伝統産業の一つと見られているが、舞台裏では業界の生き残りをかけた「品種革命」が始まっている。

このほど、日本の飲料大手・伊藤園は、埼玉県茶葉研究所と共同で育成した新品種『彩の女神』と『彩の糸』を発表した。地方の公的研究機関と民間企業が共同で人工交配による育種に取り組むのは、初の試みである。その背景には、日本の茶産業が直面する深刻な課題がある。

近年、日本の茶業界を取り巻く環境は厳しさを増している。後継者不足や茶農家の高齢化に加え、気候変動による減産、病害虫リスクの高まり、さらには消費スタイルの変化も重なり、日本の伝統的な煎茶市場は縮小傾向が続いている。

特に、長年にわたり少数の主要品種への依存が続いてきたことで、摘採時期が過度に集中してしまい、異常気象が発生した場合には、産地全体が大きな影響を受けやすいという構造的なリスクも抱えている。

したがって、今回の新品種育成には、日本茶産業の未来がかかっているといえる。両品種はいずれも晩生種、つまり摘採時期が遅い品種である。現在、日本の主力品種は採摘時期が集中しているため、短期間に大量の労働力を必要とする。しかし、日本の農村地域では深刻な人手不足が続いている。したがって、採摘時期を分散できれば、労働力の負担を軽減し、産業全体に余裕が生まれることが期待される。

なかでも『彩の女神』は極晩生種に分類され、収量が多く、茶葉は濃い緑色で、味もまろやかなことから、緑茶飲料向けの原料に適しており、日本の巨大なペットボトル飲料市場向けに開発された品種である。

一方、『彩の糸』は病害虫に強く、有機栽培にも適していることから、「将来の輸出向け品種」に位置づけられている。このことから、日本の茶業界が大きな転換期を迎えていることがうかがえる。

これまで、日本茶は国内消費を前提に発展してきた。しかし近年は、輸出産業に育成する方向へ舵を切っている。特に、中国大陸や台湾、東南アジアの茶が国際市場で存在感を高める中、日本は緑茶を健康飲料として世界市場に広げようとしている。

そのためには、農薬残留、病害虫対策、安定供給といった課題を解決する必要がある。こうした背景から、「有機栽培」「病害虫耐性」「飲料の工業化適性」が、日本茶業界の現実的テーマとなっている。

また、この二つの新品種の名称には、日本のブランド戦略が込められている。『彩の女神』の「彩」は、埼玉県の愛称「彩の国」に由来し、「女神」は伊藤園の生産拠点がある静岡県牧之原市にちなんだもので、地方自治体と生産拠点の名称を巧みに組み合わせている。さらに『彩の糸』の「糸」は、「伊藤」と「糸」の発音が近いことから、ともに未来を紡いでいくという意味が込められている。

埼玉県茶業研究所は、1993年にはすでに交配実験を始めていた。そこに伊藤園が2021年に加わり、本格的な共同研究へと発展した。日本では、茶の新品種が実験を経て市場に出るまで、30年以上かかるとされている。

茶樹は多年生作物であり、一度普及に失敗すれば損失は極めて大きい。そのため、日本茶業界は新品種導入に対して長年慎重な姿勢を取ってきた。

しかし、その一方で、今日のグローバル競争を勝ち抜くことが難しいことも認識している。そして、日本の茶業界にはもう一つの懸念がある。新しい品種、新しい市場、新しい消費が生まれなければ、日本の茶業界そのものが高齢化社会の中で徐々に衰退していくのではないか――。今回の新品種育成は、こうした危機感の中で模索される、日本茶の新たな可能性への挑戦でもある。