中国のオープンモデルが世界のAI開発基盤に

KimiやDeepSeekといった中国のオープンウェイトモデルの性能が向上を続けるなか、海外のAI企業がこれらを基盤に追加学習を行い、独自のモデルや製品を開発する動きが広がっている。中国のAIモデルは、完成した製品として海外で利用されるだけでなく、新たなAIを生み出すための「技術基盤」としても存在感を高めている。

中国AIを基盤に
独自モデルを開発

その活用方法も多様化している。基盤モデルとして直接利用するだけでなく、学習に必要な合成データの生成や、モデルアーキテクチャ、学習手法の参考にされるケースも出てきた。中国のオープンウェイトモデルは、世界のAI研究開発や産業の中に深く入り込みつつある。

米国の法務AI企業Harveyは先ごろ、初のオープンウェイトモデル「Tenet」を発表した。Tenetは、中国のMoonshot AIが開発した「Kimi K3」を基盤に、法律業務に特化した追加学習を行って開発されたモデルである。

Harveyによると、Tenetは実際の法律業務に近い約1750のAIエージェント環境で繰り返し学習と最適化を行い、一連のトレーニングには約2か月を要した。

同社が5月に発表した初期テストでは、「すべての評価基準を満たす」ことを条件とした場合、市場の多くの汎用モデルが法律実務のタスクを完全に遂行できた割合は10%未満にとどまった。一般的なAIモデルは幅広い知識を持っていても、専門的な法律業務を最後まで正確に遂行する能力には課題があったということだ。

これに対し、法律業務に特化したトレーニングを行ったTenetは、総合的な法律実務タスクを完全に遂行できた件数が、ベースとなったKimi K3の2倍近くに達した。契約書の作成、審査、交渉などの特定のタスクでも、完全に遂行できた件数は約20%増加した。しかも、元のモデルが持つ一般的な法律知識も概ね維持していた。

中国のオープンウェイトモデルが海外のAI製品開発に取り入れられた例は、これにとどまらない。

米国のコードエディタ「Cursor」の運営会社は、今年3月に公開した自社開発のプログラミングモデル「Composer 2」の技術レポートで、同モデルがKimi K2.5を基盤に開発されたことを明らかにした。主にコードデータを使って継続的な事前学習を行い、プログラミングに必要な基礎能力を強化したうえで、大規模な強化学習によって実際のタスクを遂行する能力を高めた。

5月に投入された「Composer 2.5」も引き続きKimi K2.5を基盤としながら、事前学習の規模と強化学習のタスク数をさらに拡大した。

また、米国のAIスタートアップCognitionや英国のCosineも、それぞれKimiモデルを基盤に大規模な強化学習を行い、ソフトウェア開発能力を高めた独自のAI製品を開発している。

中国AIの技術が
モデル設計にも浸透

中国のオープンウェイトモデルの影響は、基盤モデルとして直接採用されるケースだけではない。学習データの生成やモデルの設計にも広がっている。

OpenAIの最高技術責任者(CTO)を務めたミラ・ムラティ氏が創業したThinking Machines Labは、同社初のオープンウェイトモデル「Inkling」の開発にあたり、中国製モデルを基盤モデルとして直接採用したわけではない。一方、同社の公式資料によると、Inklingの混合専門家(MoE)アーキテクチャは、主にDeepSeek-V3の技術を踏襲している。

さらに、ポストトレーニングの初期段階では、Kimi K2.5を含むオープンウェイトモデルを使って学習用の合成データを生成し、それを最初の教師ありファインチューニングに利用した。

これまでAI企業が最先端のモデルを開発する際には、クローズドモデルに大きく依存する傾向があった。しかし、KimiやDeepSeekなど中国のオープンウェイトモデルの性能が大幅に向上し、一部が最先端レベルに達したことで、新たな選択肢が生まれている。

同時に、AIそのものに求められる能力も変わってきた。これまでのAIは、利用者からの質問に答える能力が主に評価されてきた。しかし現在は、情報を探し、必要なツールを使い、状況に応じて判断し、途中で間違いがあれば修正しながら、複雑な仕事を最後まで遂行する「AIエージェント」へと進化している。

そのため、モデルの評価基準も「質問にどれだけ正確に答えられるか」から、「実際の仕事をどこまで遂行できるか」へと変化している。

複雑なタスクを完遂するために必要な操作手順や判断基準、エラーを修正する仕組みは、実際の業務現場や業務フローの中に存在する。そのため、法律やプログラミングなど特定分野に特化した「垂直型AI」では、基盤モデルを作った後のポストトレーニングがますます重要になっている。

CursorやHarvey、CognitionなどのAI企業は、実際の業務に近い環境で大規模な強化学習を行い、情報検索、ツールの呼び出し、コンテキスト管理、エラー修正などをAIに学習させている。

こうした開発において、オープンウェイトモデルには性能以外のメリットもある。企業が自社でモデルを導入し、自ら継続的に最適化や追加学習を行うことができるからだ。

大規模に利用する場合には、推論コストを引き下げられるほか、自社の用途に合わせて柔軟に導入・運用できる。また、外部のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)への依存を減らせるという利点もある。

中国のオープンウェイトモデルは今、単に「中国製AIが海外で使われる」という段階を超えつつある。モデルの重み、学習データ、アーキテクチャなど、中国から生まれたAI技術そのものが、世界のAI研究開発や産業システムに取り入れられ始めている。

その結果、中国のAIが世界に与える影響も、完成した「製品の輸出」から、新たなAIを生み出すための「技術の輸出」へと広がっている。中国のオープンウェイトモデルは、海外企業が独自のモデルや製品を開発するための重要な技術供給源になりつつある。