真っ白な大小不揃いの髑髏100体が、部屋いっぱいに配置された作品《マス》、白い巨大なベッドに横たわり、指を顔に添え、神妙な表情を浮かべた女性を表現した《イン・ベッド》。90年代から現在までの代表作を紹介する展覧会が、森美術館で4月29日から9月23日まで開催される予定である。
マス 2016-2017
合成ポリマ-塗料、ファイバーグラス、サイズ可変
メディアデーには行けなかったものの、開催後にゆっくり見て回った。
カルティエ現代美術財団との共同主催で、近藤健一(森美術館)、チャーリー・クラーク(同館アソシエート・キュレーター)、キアラ・アグラデイ(カルティエ現代美術財団)の共同キュレーションによるものである。
異なる文化圏の間に架け橋を築くことを使命とするカルティエ現代美術財団の国際プログラムの一環として、20年前の2006年、同財団は初の大規模収蔵品展を東京都現代美術館で開催し、その際にロン・ミュエクの作品を紹介した。
ロン・ミュエクは、1958年にメルボルンで生まれ、1986年から英国を拠点に活動している。普遍的なテーマを問いかけ、具象彫刻のあり方を根本から刷新する独自の作品世界を築き上げた作家である。1990年代にはYBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)世代と並び称され、その後も比類のない彫刻制作を続けてきた。30年間にわたるキャリアを通じて制作された作品総数はわずか49点であり、その一つひとつに卓越した技術と洗練された芸術表現が融合している。
同財団は2005年にフランス・パリでロン・ミュエクの初の個展を開催し、その後も2013年と2023年にも個展を開き、それぞれ新作や委属制作作品を発表してきた。
イン·ベッド 2005
ミックストメディア、162×️650×️395cm
2005年の初個展から、2023年の展覧会でヨーロッパ初公開となった大型彫刻《マス》は作家のキャリアにおける大きな転換点となり、彫刻に対する革新的なアプローチを示す作品となった。その後、展覧会はミラノ・トリエンナーレ(2023年)、そして韓国国立現代美術館(2025年)へと巡回した。韓国で初となる大規模個展では、《マス》以外にもハイパー・リアリズム彫刻の数々が話題を呼び、3カ月の展示期間中に来場者数が53万人を記録したことも注目された。1日平均では5671人、週末の混雑時には1万人を超えた。
韓国・国立現代美術館では、《マス》の骸骨を壁際に積み上げた展示が印象深かったのに対しに、森美術館ではもう少し平らに展示されている。
森美術館で開催中の「ロン・ミュエク」展は、7月9日(木)に来場者数20万人を突破した。6月1日(月)に10万人を突破して以降、好調な勢いが続いている。
1986年より英国に在住していたミュエクは、映画・広告業界で20年以上働いたあと、1990年代半ばに彫刻制作を開始した。1996年にロンドンのヘイ・ワード・ギャラリーで開催された展覧会で、ポルトカル人画家パウラ・レゴの絵画と共に、彼の彫刻《ピノキオ》(1996年)が展示され、現代美術界にデビューした。翌年、他界した父親を小さく表現した《死んだ父》(1996―1997年)が、同地のロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催された「センセーション:サーチ・コレクションのヤング・ブリティッシュ・アーティスト展」に出品され、注目を集めた。
以来、ミュエクは世界各地の権威ある美術館で作品を発表し、近年では韓国・ソウルやオンランダのハーグ、直近では2025年12月から2026年4月にかけてシドニーにて個展を開催している。日本では2006年の東京都現代美術館展に続き、十和田市現代美術館では《スタンデイング・ウーマン》(2007年)が常設展示されている。一作品を制作するために数カ月、時には数年を要することもあり、過去30年間に制作された作品総数は50点ほどにすぎない。
実際の人体を等身大の約5倍にした作品《ボーイ》は2001年の第49回ヴェネチア・ビエンナーレで発表された。ホワイト・キューブではないヴェネチアの展示空間に置かれた巨大な少年の、やや怯えたような不安そうな眼差しによって、ミュエクの具象彫刻は国際的な注目を集め始めた。具象彫刻が決して主流とは言いにくい時代の流れの中で、稀有な存在であったと言っても過言ではない。
日本で初めてミュエクの作品が紹介されたのは、2002年に東京国立近代美術館で開催された「連続と侵犯:現代美術の視点5」に《大きな赤ん坊Ⅲ》が出品された時である。
2008年には、ミュエク世界5都市巡回展の一環として、金沢21世紀美術館でも個展が開催された。その際に展示された巨大な自画像《マスクⅡ》(2001/2002年)や、巨大なスケールで表現した《イン・ベッド》(2005年)が、今回の展示会でも展示されている。
展示会の作品構成は、スケールの大小、主題となっている人物の種類やそのリファレンス、人物が単体か複数で構成されているかどうかという点において、ミュエクの制作の幅広さを反映し、30年間にわたる作品世界を如実に示している。
舟の中の男、2002
ミクストメディア、159×138×425.5cm
AGI時代、あるいはASI時代がすぐそこまで来ている。「テクノロジーが人間らしさをほぼ完璧に模倣できる今日だからこそ、ミュエク作品はますます際たつ存在である。(中略)観衆は、作品の前で立ちとまり、共感し、人間であることの重みを感じるように語りかけてくる。そして、彼の作品は命の有限性、脆さや脆弱性、孤独、渇望、裏切りによる絶望感など人間だからこそ命の宿るそのさまざまなる容態を、人間の昔も今も変わらぬ本質を忘却から救い出す、壮大で、密やかな案内人ではないだろうか」
FIFAワールドカップの試合を見るために早起きしてサッカー観戦する人が多い中、ネイマールやロナウドたちのサッカー人生の幕引きに、「悲劇への共感」を覚え、思わずもらい泣きもした。上海で画廊を20年続けてきた自分も、再開発と暴力的な地上げに遭遇している。いつかはさよならを言う時が来る。ミュエクの不穏な空間と人間との対峙の中で、上海とのサヨナラは、どこか異なる城域への新たな導きのようにも思えてきた。

洪欣
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。
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