3人の事業者が挑むそれぞれの「ワールドカップ」

2026年ワールドカップ北中米大会の開幕を前に、中国製品はすでに「ピッチ入り」を果たしていた。大会公式試合球や優勝トロフィーのレプリカ、関連グッズから大会運営を支える先端技術に至るまで、中国の産業チェーンは世界最大級のスポーツイベントを支えている。

中国各地の工場では数か月前からフル稼働が続き、デザイン開発や受注対応に追われてきた。「受注の伸びに生産が追いつかない」と語る事業者がいる一方、「午前中に話題をつかみ、午後にはサンプルを完成させる」企業もある。

サッカーファンが熱戦に沸く陰で、多くの中国企業はすでにワールドカップ商戦を戦ってきた。本紙記者は3人の事業者を取材し、それぞれの「ワールドカップ」の舞台裏に迫った。

浙江省義烏国際博覧センターでワールドカップ関連商品を選ぶ外国人バイヤー

義烏の事業者
十数社の工場が協力して納品

「貿易に携わる者なら、誰もがワールドカップ商戦に参入しなければならない。靴下を売るにしても、ワールドカップの要素を取り入れなければならないのです」。パーティー用品業界で12年間事業を続けてきた義烏市巻利日用品有限公司の樊林娟社長は、4年に1度の大会がもたらす商機をこう語る。

樊氏が拠点を置く浙江省義烏市は、ワールドカップ関連商品の一大集積地として知られる。義烏市体育健身用品業界協会の推計によると、前回のカタール・ワールドカップ期間中、「義烏製」は世界のワールドカップ関連グッズ市場の約70%を占めた。今年第1四半期のスポーツ用品輸出額は前年同期比12%増。この半年間、樊氏と同社もその熱気を肌で感じてきた。

ワールドカップ需要の高まりに備え、同社は例年より大幅に早い段階から準備を進めてきた。食器や装飾品、風船、ガーランド(連続旗)などのパーティー用品を主力商品とする同社は、昨年11月からワールドカップ関連商品のデザインに着手。その後、顧客からの問い合わせ、受注、商品カスタマイズ、生産へと進み、最も忙しい受注ラッシュ期には生産ラインを次々と増強した。最終的には周辺の10社以上の工場にも協力を仰ぎ、ようやく注文品を納品した。現在、北中米ワールドカップ関連商品の売上高は100万元(約2500万円)を超えている。

「ワールドカップは単なるスポーツ大会ではなく、大きなビジネスチャンスでもある」と樊氏は語る。海外市場の嗜好に合わせるため、同社は北中米ワールドカップ向けに、食器や装飾品、玩具などを含む7つのシリーズを開発した。「開催国やマスコットの特徴を研究し、各国の国旗の色を取り入れたうえで、AIを活用してデザインを作り上げています。まずは顧客にベースとなる商品案を提示し、その後、顧客が色やロゴなどを調整して独自仕様に仕上げていくのです」と樊氏は説明する。数千セットから数万セットの注文まで、デザインから印刷、完成品の出荷までに要する期間はわずか1週間。このスピード感も、中国企業の競争力の一つとなっている。

しかし、かつてのように「サッカーボールを作れば売れる」時代ではなくなった。樊氏は、いまのビジネスは以前にも増して手間と工夫が求められるようになったと語る。一つは、顧客ニーズが変化し、個別対応が商品の重要な競争力になったことだ。もう一つは、「同業他社のレベルが非常に高くなった」ことである。商品デザインや製造技術、品質はいずれも年々向上しており、企業は競争の中で生き残るため、これまで以上の努力を求められているという。

近年、事業拡大に対応するため、同社はデザインチームを1~2人規模から十数人規模へと増強した。倉庫面積も3000平方メートルから1万平方メートルへ拡大し、営業チームも20~30人規模に成長した。かつては1元(約25円)の紙皿に230グラムの紙を使用していたが、現在はすべて300グラムの紙に切り替えている。価格は据え置いたまま、品質向上を図らなければならないからだ。

樊氏はこうした変化を挙げながら、「まさにこうした切磋琢磨の積み重ねが、国際市場における『中国製造』の競争力につながっている」と語った。現在、ワールドカップ関連商品の受注はほぼ一段落したが、「すぐにハロウィーン、感謝祭、クリスマス向け商品のデザインに取り掛かります」と樊氏は話す。パーティー用品業界は季節ごとの行事に合わせて動いている。流行への鋭い感度と強固なサプライチェーンを維持できれば、次の受注ラッシュはすぐそこだ。

青島市の工場でワールドカップ関連の旗を製造

フラッグメーカーでは
オリジナル品が一番人気

「ワールドカップは業界にとって一大商機であり、私たちが見逃すわけにはいかない」。浙江省永康市の彩紡工芸礼品有限公司の呂長春社長は、2011年に父親から会社を引き継いで以来、4度のワールドカップ商戦を経験してきた。

昨年のクリスマス以降、同社にはワールドカップ関連商品の注文が相次いだ。ガーランド旗や車用フラッグ、カラーフラッグ、吊り下げ旗、サポーター向けマフラーなどである。今年6月初旬になってようやく関連商品の受注が一段落した。「春節明けから5月までは工場が非常に忙しく、輸出向けの受注が集中したため、生産計画を調整しながら納期に対応していた」と呂氏は語る。

ワールドカップ商戦を何度も経験してきた呂氏が強く感じるのは、「競争がますます激しくなっている」ということだ。同社が差別化の切り札として掲げるのが、柔軟なオーダーメード対応である。

呂氏によると、現在、同社の受注ルートは徐々に多様化している。例えば、アリババ傘下の「1688」では、多くの顧客が輸出向け販売業者であるため、越境EC市場のニーズに対応できるよう、同社では基本的に72時間以内に納品できる体制を整えている。また、今年は小口注文が非常に多かったことから、それに合わせて戦略も見直した。ガーランド旗や変形タイプの吊り旗などについては、1点からでも受注に対応している。

こうした変化は、生産現場にも新たな対応を求めている。まず、各工程の連携にはこれまで以上の精度が必要になった。例えば、以前は1000点を1件の注文としてまとめて生産していたが、現在では同じ1000点でも数十件の小口注文で構成されることがある。しかも、注文ごとに包装や生地などの仕様が異なるため、生産管理の難易度は大きく高まっている。

かつて工場は大量注文を前提とした出来高制の生産に慣れていたが、現在では時間給や月給制など、より柔軟な賃金体系への転換も求められている。「こうした対応を可能にするには、工場内のデジタル管理体制をしっかり整備する必要があります」と呂氏は語る。

競争を勝ち抜くため、同社はもう一つの柱としてオリジナルデザインの強化に力を入れている。カタール・ワールドカップの際には、呂氏がチームを率いて3つの時間帯に対応した試合日程表を開発し、ヒット商品となった。今年は、各国代表チームのエンブレムと国旗の色を組み合わせたサポーター向けマフラーを発売し、現在最も売れている商品となっている。

市場の動向に対する感度と迅速な対応力を維持するため、同社は「毎週2つの新商品を投入する」というKPI(重要業績評価指標)を設けている。つまり、1週間以内にデザイン、試作、商品画像の制作、販売準備までを終え、商品を市場に投入しなければならないということだ。「現時点では、ワールドカップ関連商品の売上高は年間売上高の約4分の1を占める見込みです」と呂氏は語る。

ワールドカップ開幕前の最も忙しい時期は過ぎたものの、呂氏と同僚たちは今も試合日程を細かく追っている。「最終的にどのチームが優勝するのか、誰もが楽しみにしています。まずAIに各チームの戦績やパフォーマンスを分析させ、過去のデータと照らし合わせながら、ベスト8入りが期待されるチームの関連商品について在庫を準備するつもりです。需要が一気に高まった場合には、商品を航空便で迅速に海外へ送り、現地の熱気が冷めないうちに届けることができます」と呂氏は語る。

これまで何度もワールドカップ商戦に携わってきた事業者として、呂氏は、技術基盤からブランドスポンサー、大会関連グッズに至るまで、中国企業と「中国製造」がより幅広い形でこの世界的なスポーツの祭典に関わるようになっていることにも注目している。革新を続ける力と市場動向を的確に捉える力さえ保てば、ワールドカップがどこで開催されようとも、「中国製造」は輝きを放つだろう。

南通市の工場でサッカーボールを加工する作業員

ペット用品会社――
大会特需を確実につかむ

ワールドカップ商戦は、ペット業界にも広がっている。安徽威旺ペット用品有限公司が発売したワールドカップ仕様のペット用ユニフォームは、この3カ月で売り上げを大きく伸ばしている。「このペット用ウェアは、これまでに何度も手掛けてきました」と同社の袁長龍社長は語る。

7、8年前、同社はいち早くスポーツイベントとペット消費の接点に着目した。夏場はペット用ウェアのデザインが単調になりがちだが、サッカーやバスケットボールなどのスポーツ要素をタンクトップに取り入れることで、新たな需要を掘り起こすとともに、大会の盛り上がりを販売につなげてきた。現在、このペット用ユニフォームはアルゼンチン代表やブラジル代表など、人気の高い7チームのデザインを展開している。「今年はワールドカップへの注目度が高まったこともあり、これらのペット用ユニフォームの売れ行きは例年以上に好調です」と袁氏は説明する。

業界では上半期は通常、ペット用衣類の閑散期に当たる。気温が上昇するため、下半期のような防寒需要がなく、ペットに服を着せる目的も、機能性より見た目のかわいらしさや飼い主の満足感が中心となるからだ。ペット用夏服の販売は通常、春節後に始まるが、ワールドカップ人気がこの閑散期に新たな活気をもたらした。「ワールドカップが始まったから、愛犬にもユニフォームを着せて大会気分を楽しみたい」。1688プラットフォームには、そんな購入者のコメントも寄せられている。袁氏は、ワールドカップ人気によって、同社のペット用ウェアの閑散期の売上が20%以上押し上げられたとみている。

大会需要が本格化する前から、工場ではすでに準備を進めていた。「生産面では、生地を通常より50%以上多く確保し、出荷に支障が出ないよう、早い段階から在庫を積み増しました」と袁氏は語る。同社の自社工場は1日当たり5万着の生産能力を持つ。汎用の白い生地を除けば、プリント加工を含むすべての工程を工場内で完結できるため、市場の変化にも柔軟に対応できる。また運営面では、チームがECプラットフォーム上の販売動向を注視しながら、商品紹介やページ構成を適宜見直し、顧客ニーズへの対応を図っている。

袁氏にとって、ワールドカップはもはや単なる「商機」ではなく、安定した収益源として事業の一部に定着している。閑散期の生産能力を有効活用できるだけでなく、年間の生産計画にも新たな繁忙期をもたらしているからだ。

また、長い目で見れば、製造技術も市場競争の中で絶えず磨かれている。「今回のワールドカップで最も大きな変化は、生産技術をさらに向上させたことです。色の統一性や定着性を高め、印刷技術も改良しました。品質は着実に向上しています」と袁氏は語る。

ワールドカップ向けのペット用ユニフォームからスタートした同社は、さらに大きな事業展開も視野に入れている。ペット用ウェアには明確な繁閑差があるため、今後はペット用玩具や日用品などへ商品ラインアップを広げる計画だ。袁氏によれば、この構想は今後1~2年以内に実行に移される見込みだという。

ワールドカップが開幕しても、このペット用品メーカーに受注争奪戦や昼夜を問わない増産体制はなかった。むしろ、その姿は「中国製造」の底力を物語っている。世界的スポーツイベントによる需要が押し寄せても、本当に力のある企業は慌てることなく、それを着実に受け止めることができるのである。

一つの関連グッズから多彩な商品シリーズへ。大量生産から柔軟なカスタマイズへ――。3人の事業者が挑んだそれぞれの「ワールドカップ」は、中国製造業の転換と高度化を象徴している。価格だけでなく、デザインや品質、サービスでも競い合い、競争の中で新たな活路を切り開く。幾度もの挑戦を通じて企業力を磨き上げ、強力なサプライチェーンと鋭い市場感覚を武器に、次々と生まれる需要を商機へと変えていく。それこそが、「中国製造」の底力なのである。