石破茂が語る田中角栄の経営手腕

日本の政治史において、故・田中角栄元首相は伝説的な人物であり、戦後日本を代表する卓越した政治手腕を持つ現実主義者として高く評価されている。3月16日、「時局心話會」が主催した石破茂前首相の講演会において、田中角栄の「最後の弟子」である石破氏が、田中角栄氏にまつわるエピソードを紹介した。

石破氏によれば、田中角栄氏は「人を叱るときはサシでやれ。褒めるときは人前でやることだ」と語っていたという。

この話に、会場からは笑いが起こった。言葉自体は簡潔だが、そこには人をマネジメントするうえでの本質的な知恵が凝縮されている。

まず、一対一での叱責は相手を守る行為である。政治の世界も、組織という点では一般社会と大きく変わらない。人は公の場で厳しく叱責されると、自尊心が傷つき、防衛反応を示したり、場合によっては反抗的な態度をとることもある。リーダーが人前で部下を叱責すれば、権威を誇示しているように見え、組織の結束が損なわれる恐れもある。これに対し、一対一の叱責であれば、問題点を指摘しながらも相手の体面を保つことができる。部下もまた、批判を受け止めやすくなり、自ら過ちを正そうとするだろう。

そして、人前で褒められれば、モチベーションの向上につながる。組織を動かすのは制度だけではない。感情や尊厳、誇りといった要素もまた、組織を動かす重要な要素である。同僚の前で評価されれば、そのまま本人の力に変わる。さらに重要なのは、模範としての効果を生み出す点である。チーム内で目指すべき方向性が明確になる。

叱責して間違いを正し、称賛して力を引き出す。田中角栄氏はこの二つを場面に応じて使い分け、個人の尊厳を守りつつ、組織効率を最大化したのである。これは単なる対人スキルではなく、経営手腕と言うことができる。優れたビジネスパーソンは、権威の示し方と相手の体面への配慮を心得ている。

 田中角栄氏が最大派閥を築き上げた背景には、こうした人心掌握術があったことは間違いない。