検査機関から見た 日本の食の安全 第2回
輸入食品の残留農薬と食品添加物

令和6年度の輸入食品監視指導結果によれば、輸入届出件数は約247万件、輸入重量は約3,191万トンに達した。このうち8.4%にあたる206,227件が行政検査や登録検査機関による検査の対象となり、731件が法違反として積み戻しや廃棄の措置を受けた。届出件数比では0.03%と極めて低い数値だが、これは限られた検査資源を高リスク品目に集中投入するリスクベースの監視が機能している結果であり、日本の輸入食品監視が精緻に運用されている証左でもある。

違反内容を見ると、残留農薬が169件(23.1%)で最も多く、続いて有害・有毒物質、微生物、食品添加物の使用基準違反がいずれも約19%で並ぶ(表1参照)。本稿ではこのうち残留農薬と食品添加物に焦点を当てたい。

 残留農薬の違反事例とその管理

日本では2006年よりポジティブリスト制度(安全性が確認された農薬等をリストに掲載し、それ以外の物質の使用を原則禁止する制度)が導入されている。制度導入当初こそ違反が増加したが、現在は安定した水準にある。しかし、把握できる農薬だけでもその数は数百種類に及び、農場まで遡って使用農薬の管理を徹底しても、近隣農場からのドリフト(飛散)による予期せぬ汚染が起こり得るなど、実務レベルでの管理は依然として難しいままである。また残留農薬の基準違反は商品の安全性イメージを大きく毀損する恐れがある。違反事例が発生すると、しばしば「基準値の○○倍検出」「○○袋回収」等のセンセーショナルな文言と共にニュースとして報じられることもあり、事業者にとって残留農薬管理は極めて重要な事項である。

生産国別の違反件数では、中国68件(38.8%)と最も多く、次いでガーナ21件(11.7%)、ベトナム15件(8.3%)が続く(表2参照)。ただしこの違反件数の大小は輸入規模の大きさ(母数)や品目構成の影響を強く受けるものであり、国別の「安全性」を直接示す指標ではない点には注意が必要である。農産物の届出比率の高い国で違反件数が多くなるのは当然の相関である。

主要な違反品目は次の通りである。にんじん、ブロッコリー、たまねぎ、菜の花、ねぎ(中国)、カカオ豆(ガーナ)、バナナ、赤とうがらし(ベトナム)、など。また国別総数では少ないがカレーリーフ、ひよこ豆(インド)、ごまの種子(モザンビーク)、コブミカンの葉(タイ)、カカオ豆(エクアドル)で複数件の違反が確認されている。

違反事例は厚生労働省がHP等で随時公開している。違反が確認されると当該品目及び農薬は高リスクと判断され、モニタリング検査、自主検査等の検査が強化されるが、一定数の検査において続く違反が見られなければ通常の監視体制に戻される。こうしたリスク評価は日々更新されるため、製造者、輸入事業者双方が最新情報を把握し、輸出前の自主検査や農場及びその周辺地域での農薬使用状況の確認を効率良く行うことが、継続的なリスク低減の鍵を握る。

 

食品添加物使用基準違反が減らない理由

一方、食品添加物の使用基準違反についてはどのような対処ができるであろうか。

食品添加物は保存料、甘味料、着色料、香料等、食品の製造過程または食品の加工・保存の目的で使用される物質である。食品安全委員会による評価を経て対象食品ごとに用途・使用量の基準が定められている。製造過程で一定の目的を持って意図的に添加するものであり、農薬ほど種類は多くなく管理しやすいように見えるが、輸入食品においてはこの添加物の使用基準違反が依然として発生している。その背景には二つの要因があると考える。

第一に、国・地域ごとに使用基準が異なる点である。酸化防止剤のtert-ブチルヒドロキノン(TBHQ)や甘味料のサイクラミン酸、着色料のアゾルビン等、外国では一般的に使用されている添加物でも日本では使用が認められていないものが多数ある。海外市場向け仕様のまま製造し輸入してしまうことで違反となるケースが後を絶たない。さらに、使用可能な添加物であっても、対象食品ごとに使用量上限が異なることを知らないといった、いわゆる「知識不足」を原因とするものも多い。

第二に、加工食品そのものの複雑化がある。近年の輸入加工食品は、調理済み・味付け済みの完成品が中心で、個包装のまま店頭で販売され、そのままかもしくは電子レンジで加熱するだけで手軽に喫食できるようになっている。そのため加工食品の製造では主原料に加えて多数の副原料、調味料が用いられている。主原料も未加工素材ではなく、他業者が製造した半製品を仕入れて使用するなどが増え、サプライチェーン自体が長く、複雑化することで、その管理も難易度が上がっていると言える。

輸入事業者は製造者から提出された製造工程表や仕様書を詳細に確認し、使用されている添加物が使用基準に適合しているか確認を行うが、その際、見落としてはならないのが使用されている副原料、調味料等である。醤油、ワインビネガー、コチュジャンなどが使用されている場合そこに含まれる添加物の把握、油調に用いる油への酸化防止剤の混入確認、仕入れ半製品の製造時の添加物使用の有無、さらには仕入先によるサイレントチェンジ(無断の仕様変更)への警戒など、点検すべきポイントは広範囲に及ぶ。

残留農薬と食品添加物は、輸入食品の品質管理における最重要項目である。リスクベース監視の強化により違反率自体は低水準に保たれているが、国際的なサプライチェーンが複雑化する中で、事業者に求められる管理レベルは着実に高度化している。安全・安心とは達成された成果ではなく、プロセスそのものである。その実現には正しい知識を持ち、適切かつ効率的な判断と対応を継続することが必要だ。

次回は、微生物及び有害・有毒物質に係る違反とその管理について解説する。