『中国のお茶 六保茶のしおり』
飲む健康化粧水(2)

六保茶リュウポオチャの造り方

(一)初製―毛茶(モウチャ、荒茶)の製造

茶摘み

中国茶の茶摘み期は、早いのが、明前茶(メイゼンチャ)として、清明節(四月四日頃)前後に摘むのと、雨前茶(ウゼンチャ)として、五月上旬の穀雨の前後に摘むものの両者が、高級茶の茶摘み期となっている。

明前茶の多くは、かつて皇帝などへの「貢茶(コウチャ)」として作られたもので、一般庶民の口に入るものではなかったが、現在では、それら明前茶の普通品が市販されている。江蘇省の太湖に突き出た小さな半島「東山」で造られる明前茶「碧螺春(ヒロチュン)」は、明前茶の代表的名柄の一つとして広く知られている。明前茶の多くは、新芽が萌芽した初期のもので「一心一葉」の始まりと云うくらいのもので、小さな芽が多くの毛茸(モウジ)に包まれており、一見、棉くずの様に見えるが、お湯を注いでしばらくすると芽の姿になってくる。

六保茶は、雨前茶の代表的なもので、五月上旬、日本の八十八夜の「新茶」に相当するが、中国の五月上旬には可成り生長しており、新芽は四~五枚から、中には六~七枚の新葉を展開している。この生長した新芽の先端の「一心二葉」を摘むわけで、明前茶とちがって大きくなっており、日本の新茶と変らない。

リュウパオ茶産地、六保村

軽萎凋(ケイイチョウ)

日本茶は、茶摘み後、出来るだけ早く処理して、茶の芽の自然の香味を残すことに最大の注意がはらわれるが、中国茶は、自然の香味もさることながら、茶の芽にいろいろと加工して、各茶特有の香味を引き出す様にしている。この軽萎凋も、日本茶には見られない工程で、摘出した茶の芽を三〇~四〇分間ほど、屋内の通風のよい所に薄く広げて萎調(イチョウ)させる。

茶の芽は、萎凋させることによって酵素が働き、渋味=タンニン=を酸化して芳香を作り出す。これを醱酵と云うが、日本茶には全く見られないもので、紅茶、鳥竜(ウーロン)茶の製造では、最も重要な製造工程とされている。

殺青(サッチン)

萎凋が過ぎると、芳香が過度となり、蜜柑の花や梔子(クチナシ)の花の様な香りがただようようになる。これを二〇〇℃近くまで熱した鉄鍋に入れて、四~五分間ほど炒(イ)る。これによって、新芽の萎凋醱酵は停止して緑茶の姿となる。この工程の良否が、製品の品位を決定することとなり、とりわけ緑茶製造にあっては大事な工程となっている。

リュウパオ茶の釜炒り作業

初揉捻(ハツジュウネン)

高温で炒られた茶の芽は、水分の蒸発と共に、柔軟となり揉み易くなる。製茶工程に、この揉捻の操作が何時頃から導入されたのか明らかではないが、お茶を美味しく味わうためには、大変重要な役割を果しておるように思われる。お茶を飲む時に、茶の葉の中に含まれている諸成分が、お湯の中に溶出し易くなるわけで、お茶の香味に重要な影響を及ぼす工程である。

現在、この工程は、大部分の茶が機械化され「揉捻機」で行なわれているが、古くは、総て手作業として行なわれ、時には足で踏むものもあった。現在でも、明前茶はすべて手揉みであり、日本に於ても、八十八夜の手揉み茶として広く知られている。

烘干(コウカン)

充分に揉捻された茶の芽を乾燥して、貯蔵に耐えうる様にするため、普通は、八〇℃程度の「乾燥機」にかけられるが、殺青に使われた鉄鍋を使って乾燥するものもあり、古くは、天日乾燥で行なわれていた。

六保茶の製造には、鉄鍋も使われているが、多くは近代的な「棚式乾燥機」が使用されている。三〇~四〇分間の乾燥で、水分が一〇%内外に保持されて出荷される。

この乾燥までの工程が、茶農家あるいは製茶工場で行なわれる一次加工の工程であり、「荒茶」すなわち「毛茶」の製造を完了し、この茶を袋詰めにして、二次加工の工場へ出荷される。二次加工は、大部分が政府の機関か、茶業団体が集荷し、精茶に再製加工を行なう。

リュウパオ茶の製茶工場

(二)精製―精茶の製造

毛茶(荒茶)の篩分(フルイワケ)

各地に分散する農家、製茶場で造られた「毛茶」が集荷されるが、産地毎に製品の出来具合は異っており、不揃いと同時に、ゴミなどの混入物もあるので、その選別が行なわれる。

製品の茶葉の大小により、上中下の三段階に篩分けされる。大部分のものは篩の目の大小により、自動的に処理されるが、明前茶の様な高級茶は手動によって選別される。上中は上級品となり、主として外国向けに輸出されるが、下級の大きな茶葉は国内に移出される。

蒸炊(ジョウスイ)

篩分けされた茶葉は、各級の品質毎に集められ、大きなタンク(直径二m、深さ三m位)に充塡(ジュウテン)し、一五〇℃もの高温蒸気を七~九分間通過さす。茶葉に附着している各種の雑菌を消減するのが最大の目的であるが、これは六保茶製造の工程にのみ見られる重要な作業である。

堆積(タイセキ)

六保茶製造の特徴の一つで、この工程で、麴(コウジ)菌による醱酵が行なわれる。恒温に保たれた部屋に、厚さ六〇~八〇糎に茶葉を堆積し、五〇~六〇℃の温度を保ちながら、四〇~四八時間位放置される。

この堆積の工程中で、六保茶特有の麴菌が繁殖し、独特の檳榔(ビンロウ)の香味が転化され、製造のキーポイントとなる所である。

 復蒸炊(フクジョウスイ)

一定の堆積醱酵で不充分な場合、再度、高温蒸気を通して、堆積を行なう。ここでは、温度も一〇〇℃内外、時間は三~五分と短時間の処理で完了する。

篭詰め

堆積醱酵の完了した茶葉は、直ちに、直径五〇糎、深さ八〇糎位の竹篭に詰められる。茶葉の良否によって、若干の差異があるが、一篭四〇~五〇キロの重量となる。篭の上部はビニール等で被われ、この工程は終る。

熟成

篭詰めされた茶葉は、恒温の保てる「トンネル式」貯蔵庫に保管される。この工程も、堆積醱酵と同様、六保茶製造に於ては、大へん重要であり、六探茶以外には全く見ることの出来ない、独特な工程である。

農産物の加工食品の多くが、熟成によって、その香味を良くするものであり、果物や、醱酵食品には特に重要な工程である。六保茶をはじめ、普洱茶等黒茶の類には、この熱成の工程はあるが、恒温恒湿の「トンネル」を利用するのは、六保茶のみとのことであり、二六~二八℃の温度と、八五~九〇%の湿度が完全に保たれ、六~八ヶ月で熟成が完了する。これが、自然の熟成となると、二~三年を要し、熟成の度合いも一定せず、六保茶が均一な品質に出来上っているのは、この「トンネル式」の効果によるものである。

再蒸炊(サイジョウスイ)

熟成された茶葉を、トンネル式貯蔵庫より取り出し、一〇〇℃内外の高温蒸気で、四~五分間殺菌する。

 再烘干(サイコウカン)

仕上げの乾燥工程で、一〇〇℃の高温乾燥機で、二〇~三〇分乾燥する。

六保茶は、以上の八工程を経て、仕上げ、すなわち精茶の製造が終り、製品は、上中下の区分そのままに商品として、国の内外に搬送される。

近年、日本に輸出される中国茶については、品質についてとかく問題があり、日本側は、食品衛生法上の見地から厳重なチェックを実施している。六保茶については、広西壮族自治区、並びに、輸出港である「梧州」の、製茶輸出関係機関の総意により、船積み直前、特別な、「高温殺菌乾燥」を行なっている。その方法は、一二〇℃の高温で一〇分間、全商品を処理するもので、衛生面での管理はかなり徹底されている。

リュウパオ茶の特徴はトンネルの熟成にある

六保茶の特性

製造工程が、他の茶類とは全く異なるもので、同じ黒茶である「普洱(プーアール)茶」にも見られない工程もあり、ことに、堆積醱酵、熟成の工程は、六保茶特有のもので、この工程によって、六保茶のすぐれた特徴が醸し出される。堆積中に作用する微生物(アスペルギルスグラッカス群、即ち麴菌<鰹節製造菌>)が繁殖した後熟作用、後醱酵のお茶です。

黒茶の名にふさわしく、真黒な茶であり、普洱茶の様なカビの臭いが無い。熟成が充分に行なわれているため、変質、劣化の心配も少く、永く保存に耐える。

また、焼肉、油炒の料理など油脂を多く使用する食事の後に特におすすめできる。後味がよく、胸から胃までスッキリし、口の中がさっぱりします。

六保茶の成分と効用

多様な成分

六保茶は、製造法の特性から見て、日本茶の様な葉緑素は、完全に分解されており、日本茶の特つ諸成分、ことに、新鮮さや、緑の要素は全く見られない。

しかし、茶の持つ本来的な諸成分である、タンニン、カフェイン他、微量成分に至るまで、多くの成分を含有し、各種の無機成分が多く含まれている。これは「六保茶」の産地である、「六保郷」の自然条件、又は、土壌条件によるものと思われる。

さらに、黒茶特有の菌類(麴菌)醱酵と、完全な熟成工程があるため、茶葉のタンニンが、完全に酸化されており、タンニンのカテキン類への変化が進んでいることである。カテキンの種類も多く、それだけ飲み易くなっている。

淡白な香味

茶の香味は、主として、茶の主要成分である、渋味=タンニン=の変化によるもので、香り、味、そして色も、タンニンの変化の程度によって、緑花になり、紅茶になり、鳥竜茶にもなり、そして、黒茶にもなるわけで、成分と共に、香りも、味も変ってくることになる。

六保茶は、麴菌醱酵による、カビ臭さが殆んど感じられない。若干「檳榔(ビンロウ)」の香りがあり、その香りが本物の六保茶として貴重なものとされ、どうしてその香りが附着するかについては、製造の秘密事項とされている。

何故、「檳榔」の香りを求めるかについては、かつて、中国南部の温暖な地方に住んでいた人々が、お茶の代用として「檳榔」を噛んで居り、そこへ北方から、漢族と共に、お茶という飲み物が普及し、それまでの「檳榔」に取って替ったのではないかと推測される。

六保茶は、日本茶の様な渋味は少なく、真黒になるほど濃く入れても、渋くて飲めないということはない。これは、堆積醱酵と、トンネル式貯蔵庫による熟成工程によって、渋味=タンニン=が完全に酸化され、カテキンの渋味に変化したことによる。

カテキンが注目されるようになったのは、最近のことであり、その何種類かが発見されたが、その正体については、未知の部分が多い。しかし、このカテキン的な渋味が、コレステロールやアルコールを分解するということが、化学的に実証されている。私達の日常生活に六保茶が受け入れられるのは、自然の恩恵によるものである。

六保茶の色は、真黒で、まさに黒茶の代表と云えるが、熱湯で煎出すると黒褐色となり、さらに薄めると黄金色=山吹き色=となる。これは茶類のすべてに共通することで、茶の色の基本は、黄金色であるということを、正直に物語っている。

六保茶は子供達にも大うけ

六保茶の効用

美人作り(タンニン・カテキンの効用) 六保茶が、日本に紹介され始めたのは、一九八七年からであるが、原産国の中国南部、広東省や、広西壮族自治区に於ては、五〇〇年から六〇〇年の歴史を有する。中国料理の様な脂肪分の多い食べ物には不可欠の飲みものとなっている。

脂肪分の多い食品に適応するということは、その消化を助け、余分な脂肪を分解し、俗に云われている悪玉のコレステロールを除去する役割を果している。これは、血液の浄化作用に役立ち、血行を良くし、高血圧に対する効果も期待出来ることになる。

お茶の渋味の正体はタンニン。この渋味は口の粘膜に含まれるタンパク質と結合したときに感じるものですが、このようにタンニンは他の物質とすぐ結びつきやすい性質があるため、発ガン物質を抑える働きのあることがいろいろな実験でわかってきました。さらにタンニンは防腐剤、腸の収れん剤、下痢止め剤としても知られており、健康飲料としての茶の効用の中で重要な役割を果しています。

カテキンは、タンニンが麴菌や酵素によって変化したもので、老化の原因である過酸化脂質の発生を防ぐ働きがあります。ビタミンEの過酸化抑制効果はよく知られていますが、カテキンはその一〇~二〇倍もの効果があるという実験結果もでています。

お茶にたくさん含まれているタンニンは、いろいろなものを吸着して体外へ排出する働きをもっています。シミやソバカスを作るメラニン色素をはじめ、ニコチンやいろいろな毒素や病原菌の主成分であるタンパク質の沈澱による病害物などを吸着します。さらに放射能をもつストロンチウムなども吸着排出することも多くの学者の研究によって明らかにされています。

お茶を飲むと肌が黒くなるというのは全くの迷信で、かえって肌を美しくするのが本当の話なのです。

こうした諸効果を総合してみると、この六保茶は、まさに、健康美をつくる「飲む化粧水」とも称すべき、理想的な、健康飲料である。しかし、薬品の様な即効性を期待するのは無理なことで、日常茶飯の飲料として服用することによって、その特徴が発揮されることを附言しておきたい。

(松下智著『六保茶のしおり』東洋食研発行より抜粋)