コーヒーやペットボトル飲料が日常に定着する現代、日本のリーフ茶は、若い世代の暮らしから次第に遠ざかりつつある。原葉茶をいかにして再び日常へと呼び戻すのか――それは、いま多くの茶人が直面している現実的な課題である。
製茶業を営む家系に生まれた木口菜夏氏は、鹿児島と宮崎の茶園に囲まれて育った。六十年以上続く家業を受け継ぎながらも、現代のライフスタイルに即したかたちで、日本茶と若い世代を再び結び直そうと取り組んでいる。
このたび『日中茶界』は、東京・六本木で開催された「ナナ茶 -nana tea-」ポップアップストアにて木口氏にインタビューを行った。本稿では、その言葉を通して、日本茶の未来と向き合う新世代の茶人の姿、そして静かな挑戦を伝えていく。
―― 御社では、鹿児島県での茶の生産をいつ頃から始められたのでしょうか。
木口 1964 年に、祖父が曽祖父から1ヘクタールの畑を受け継ぎ、宮崎県串間市で茶業を始めたのが当家の茶づくりの始まりです。その後、2006年には鹿児島県南大隅町にも茶畑を広げ、当時、個人経営としては国内最大級となる約40ヘクタールの茶畑を保有するまでに規模を拡大しました。
新緑の茶畑に立つ木口菜夏氏(右)
茶園
―― 木口代表は、いつ頃から茶業に携わり、現在はどのような役割を担っておられるのでしょうか。販売のみならず製茶の現場にも立たれているとうかがっていますが、大変な作業を続ける原動力や、製茶にかける思いをお聞かせください。
木口 現在、栽培や製造は主に伯父や母が担っていますが、繁忙期には私自身も茶畑に入り、実際に農作業を行っています。特に毎年4月の新茶の時期は一年で最も忙しく、人手不足もあり、地元の方々や親戚、友人の力を借りながら、なんとか茶づくりを続けているのが現状です。
一日中畑で作業するのは、若い私にとっても決して楽なことではありません。しかし、ふと手を止めて周囲を見渡すと、新緑の茶葉が広がる爽やかな空気、深い山々、広い空、鳥のさえずりといった、自然の恵みに包まれていることを実感します。山奥の茶畑だからこそ味わえるこの環境に身を置くと、不思議と心が整い、また頑張ろうと思えるのです。
また、久しぶりに顔を合わせる地元の方々と他愛のない話をしながら作業する時間も、私にとって大切なひとときです。こうした自然や人とのつながり一つひとつが、製茶に取り組み続ける大きな原動力になっています。
ナナ茶
―― 現在、代表が想定されている主なターゲット層はどの年代のお客様でしょうか。また、そのお客様に選んでいただくために、どのような取り組みや工夫をされていますか。
木口 ナナ茶では、緑茶に馴染みの少ない方、特に若い世代にぜひ飲んでいただきたいと考えています。
現在、コーヒーや紅茶が好まれる一方で、若者の緑茶離れが進んでいると感じます。また、普段から緑茶を飲んでいるという人でも、ペットボトルで飲むことがほとんどで、家庭で茶葉から丁寧に淹れて楽しむ方はごくわずかです。日本人にとって緑茶は身近な存在ですが、その効能や正しい淹れ方、淹れたての緑茶の美味しさを知らない方も多くいます。
こうした現状を踏まえ、ナナ茶では高品質な緑茶をあえてティーバッグにして提供しています。手軽に楽しめる中でも、茶葉本来の味や香りを感じてもらえるよう工夫しています。さらに、日々の生活に自然にお茶がある時間を届けたいという思いから、「私たちの日常にお茶がある生活を」をモットーに取り組んでいます。
そして、今の若者が親世代になったときには、子どもや孫も含めて、日本茶文化を受け継いでいってもらえることが、茶業に携わる私にとって何よりの願いです。
―― 消費者に向けて鹿児島茶の特徴や魅力をわかりやすくご紹介いただけますか。
木口 鹿児島茶の大きな魅力は、深蒸し製法によるまろやかで濃厚な味わいです。茶葉をしっかり蒸すことで渋みが抑えられ、甘みや旨みが引き立ち、口当たりの良いお茶に仕上がります。深蒸し茶は、濃い味わいでも飲みやすく、日常のお茶としても楽しみやすいのが特徴です。
また、鹿児島は新茶の収穫が日本でも最も早い地域で、温暖な気候や日照量の多さなどお茶作りに適した環境に恵まれています。こうした自然条件が、鹿児島茶特有のやさしい甘みやコクのある味わい、鮮やかな水色を生み出しています。
さらに、品種や栽培方法によって香りや旨みのバランスはそれぞれ異なり、同じ鹿児島茶でもさまざまな楽しみ方ができます。温かくしても冷やしても美味しく、初めての方でも飲みやすいので、日常の中で気軽に楽しんでいただけます。
ぜひ、鹿児島ならではの風味と豊かな旨みを、一度味わってみてください。
―― 御社の主力商品にはどのようなラインナップがありますか。その中で、とくに「自社らしさ」が表れていると感じる商品を教えてください。
木口 「スペシャルティーセレクション」とい5種類の味のティーバッグを楽しめるセットがあります。ナナ茶を立ち上げて最初に生まれた商品で、特別な想いを込めた一品です。
この商品は、先ほどお話ししたように、お茶に馴染みの少ない方にも気軽に楽しんでいただけるようティーバッグタイプにしています。また、基本的にはシングルオリジンで構成しています。シングルオリジンとは、品種ごとや茶園ごとの個性をそのまま味わえるお茶のことです。そのため、1種類のお茶でも、産地や品種ごとの違いを感じながら楽しむことができます。和紅茶も2種類入れており、バリエーション豊かにお楽しみいただけます。
さらに、鹿児島らしさを伝えるには、毎年新茶の時期に出している新茶のリーフもおすすめです。品種ごとの個性や新茶ならではの香りと味わいを通して、ナナ茶ならではの魅力を感じていただけると思います。
ナナ茶
―― 代表がお好きな中国茶にはどのようなものがありますか。また、それらの中国名茶にどのような印象をお持ちでしょうか。
木口 私は緑茶が好きなので、特に龍井茶が好みです。すっきりとして上品な味わいで、お茶らしさを感じられるところが印象的です。
中国茶は長い歴史を持ち、日本にはない種類のお茶もたくさんあります。
これまでお土産などでいろいろな中国茶をいただく機会があり、香りや味わいの違いを楽しむたびに、新しい発見があるのが面白いと感じています。一つひとつのお茶に個性があり、奥が深いこともあって、とても興味深く思います。
―― もし中国の消費者に日本茶を一つおすすめするとしたら、どのお茶を選ばれますか。その理由とあわせてお聞かせください。
木口 中国にはさまざまなお茶がありますが、もし日本茶を一つおすすめするとしたら、鹿児島で有名な被せ深蒸し茶を選びます。
このお茶は、茶葉から抽出して飲む一般的な淹れ方でも、鮮やかな深緑色(品種によっては黄色味がかった緑色)とまろやかな味わいが際立つのが特徴です。抹茶とはまた違った、奥深い風味を楽しめるところが魅力です。
ナナ茶では、今年も「さえみどり」の被せ深蒸しの新茶をお届けしています。この品種は日本の茶商の中でも人気が高く、水色が美しく、優しい味わいが特徴です。ぜひ一度味わってみていただきたいです。
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