マレーシアの六堡茶文化

六堡茶はマレーシアの茶業界では重要な位置を占めている。もとは鉱山労働者の飲み物として親しまれてきたが、次第に茶楼や茶道愛好家の間にも広まり、現在ではコレクターや茶愛好家にとって欠かせない存在となっている。その味わいは現地の庶民の生活の中にも深く溶け込んでいる。

 

六堡茶は本来、中国・広西チワン族自治区の特産品である。しかし調査を進めると、初期のマレーシアに流通していた六堡茶には、広西由来、香港・マカオ由来、タイ由来、マレーシア由来という、4つの異なる体系が存在していたことが明らかになった。

広西由来とは、言うまでもなく広西産を指す。六堡茶は、ビンロウ香と、まろやかで甘みのある味わいが特長で、一晩置いても風味が崩れにくい。その安定した味わいが、マレーシアで高い人気を博してきた。一方、香港・マカオ由来の六堡茶は、これまであまり知られてこなかった。かつて自由港であった香港からは、六堡茶を含むさまざまな茶が海外に輸出されており、その原料も多様であった。広西産の茶葉を用いたものもあれば、他地域の茶葉を使用したものも存在していた。こうした香港由来の六堡茶は、マレー半島各地へ輸出・販売され、マレーシアで六堡茶の需要が高まると、香港の茶商はタイに赴き、現地の茶葉を使用してマレーシア市場向けの六堡茶を加工・生産した。こうしてタイ由来の六堡茶が誕生したのである。

マレーシア由来の六堡茶は1990年頃から生産されるようになった。六堡茶の加工・生産を手がけてきた「梁瑞生茶煙庄」が、1940年代に香港に工場を設立し、1990年にその生産および保管技術をマレーシアに移管した後、現在も操業を続けている。現在、マレーシアで流通している熟成六堡茶は、必ずしも広西、香港・マカオ、タイといった他の三地域の茶葉を用いているわけではない。製造工程にも一定の違いがあり、注意深く味わうと、風味の差異を感じ取ることができる。

次に、マレーシア特有の貯蔵法「大馬蔵」について触れておきたい。「大馬蔵」とは、マレーシアにおける茶葉の貯蔵法を指す俗称である。マレーシアの年間平均気温は21~32℃、湿度は60~80%と高温多湿であり、この恵まれた環境のもとで、六堡茶は陳香と風味を自然に保ちながら熟成が進む。「大馬蔵」によって、六堡茶に再び生命が吹き込まれるのだ。

「大馬蔵熟成六堡」とは、一般的にマレーシアの恵まれた環境下で貯蔵された六堡茶を指し、茶商や収集家、個人が専用の茶倉庫や住宅で貯蔵した六堡茶も含まれる。適切な温度と湿度が保たれ、清潔で、茶葉を変質させる異臭がなければ問題はない。先哲たちが貯蔵してきた六堡茶には、数十年の自然熟成を経た、芳醇な味わいと陳香が備わっている。「大馬蔵」という恵まれた環境の中で長期間の熟成を経て、甘みとまろやかさは増し、余韻の続く上質な熟成六茶堡になっていく。

では、マレーシアで錫鉱業が栄えた時代、なぜ六堡茶が広く飲まれるようになったのだろうか。鉱山で働く中国人労働者たちは、マレー半島の高温多湿の環境のもと、灼熱の太陽の下で、常に膝下まで水に浸かって働いていたため、風邪、熱中症、発熱、関節炎などに悩まされていた。そこで、六堡茶は喉の渇きを癒し、湿気を取り除き、疲労回復に効果がある健康茶として重宝されたのである。当時、鉱山の給仕係は、大きな水瓶に湯を張り六堡茶を浸して、無くなると湯と茶葉を継ぎ足していった。鉱山では鉱夫たちのために、毎日大量の六堡茶が用意されていたのである。

六堡茶を無償で提供しなければ、鉱夫を鉱山に引き寄せることは難しかっただろうとも言われている。このことからも、六堡茶が鉱山において重要な役割を果たしていたことがうかがえる。そのため鉱主は、住まいや食事に加えて、毎日六堡茶を用意する必要があった。疲労回復や湿熱の解消に効能がある六堡茶を提供することが、重要な福利のひとつであったのである。さらに、鉱夫たちにとって六堡茶は、郷愁を和らげてくれる甘露のような存在でもあった。

マレー半島の錫鉱業は1985年以降、衰退の道をたどったが、六堡茶がこの地から姿を消すことはなかった。六堡茶は現在もイポーをはじめ、マレーシア各地で今なお人々に愛されている。イポーに居住する華人の約9割は広東人であり、市民の間には喫茶文化が根付き、今なお多くの六堡茶が消費されている。イポーの人びとには六堡茶を飲む習慣があり、自宅で楽しむだけでなく、茶館やレストランでも飲まれている。また、六堡茶に菊花茶を加える飲み方も一般的で、「菊六堡」とも呼ばれている。この飲み方は、プーアル茶に菊花茶を加える「菊普」と同工異曲である。

本稿の著者・郭俊邦氏

日々の生活にあっても、雅事の場においても、東南アジアの中国人労働者の喉の渇きを癒し、郷愁を和らげてきた六堡茶は、時の試練に耐えながら熟成を重ね、その味わいを深めてきた。甘く香り高く、まろやかな熟成六堡茶の魅力は、一度で味わい尽くせるものではない。長い時間を経てこそ、その価値は確かなものとなる。これは、マレーシアにおける熟成六堡茶の魅力を最もよく表している。