
千年の古都・北京。王府井大街では、ネオンと車の流れが人々を現代都市の奔流へと引き込んでいく。高層ビルのガラス外壁は陽光を反射し、高級ブランド店のショーウィンドウには最新の流行が並ぶ。その一方で、街角の老舗食堂には地元の人々が豆乳の碗を手に集まり続けている。時代が入り混じるこの光景は、まるで未完成の油絵のようであった。
そんな矛盾が調和する場所を、私は長らく見いだせずにいた。だが先日、親友であり「多聊茶」の創始者でもある楊多傑氏に案内され、璞瑄酒店の四階にある「茶軒」に足を踏み入れたとき、ようやくその答えに出会った。
「茶軒」のガラスドアを開けると、淡い黄色の木製家具と竹編みの照明がつくる柔らかな光が、外の喧騒を薄絹のように和らげていた。中央の竹製の小上がりは半透明の屏風でほどよく仕切られ、窓際の畳席にはカーテン越しの陽光が差し込み、茶葉メニューの文字までも温かみを帯びて見える。
楊氏によれば、ここは一日に受け入れる客を少数に絞っており、事前予約をしなければ「最高の眺め」の席には座れないという。その席からは、景山の万春亭の屋根、故宮の赤い城壁、そして胡同の灰色の瓦屋根を一望できる。まさに黄金のコーナーだ。
「私たちは『都会の隠れ家』をつくりたいのです」と、茶軒の主人は語る。
この店のデザイン哲学は細部にまで息づいている。壁には江南の古民家から移した青レンガがはめ込まれ、テーブルは一枚板の金絲クスノキで作られ、店員の制服には麻素材が使われている。これらはすべて、宋代の文人が重んじた「自然を人の道とする」という美意識に通じる工夫だ。
とりわけ目を引くのは展示ケースの茶器である。宋代の建盞(けんさん)は、ウサギの毛のような釉薬(ゆうやく)模様が灯りに揺らめき、明代の青花蓋碗(せいかがいらん)には蓮の文様が淡く浮かび上がる。一方、現代デザイナーのガラス製急須は、ミニマルな線で伝統的な形を再構築している。
ここには新旧の対話があり、その微妙な均衡は北京という都市そのものを思わせる。六百年の王城が持つ重厚さと、CBD(市中心部のビジネス街)にそびえ立つ高層ビル群のシャープな輪郭が共に見える風景と重なるのだ。

茶葉メニューには三十種類以上が並び、「清(清らかさ)・甘(甘み)・醇(コク)・厚(深み)」の4つのカテゴリーに分けられている。西湖龍井の豆のような香りから、雲南古樹紅茶の蜜のような風味まで、それぞれの茶葉には産地やおすすめの淹れ方が添えられている。
ここでは「宋代文化体験セット」が用意されており、茶芸師が建盞(けんさん)と茶筅(ちゃせん)を使って「七湯点茶法」を実演してくれる。これは宋代の皇室や文人がたしなんだ点茶の作法で、現在は無形文化遺産に登録されている。
「一湯目は静かに注ぎ、眠る茶葉を驚かせないように。二湯目は茶筅で素早くかき混ぜ、茶湯に泡を立てて…」
茶芸師の手が碗の中で軽やかに舞う。澄んだ茶湯はやがて乳白色に変わり、表面には雪の花のような泡が咲いた。さらに彼女が茶膏(茶葉を煮詰めて固めたもの)を墨代わりに使い、泡の上に遠くの山や飛ぶ鳥を描くと、隣の席の子供が小さな声で驚いた。
「ママ、お茶の上に絵を描いてる!」
その瞬間、私は宋代の文人が点茶を「風雅の極み」と呼んだ理由を理解した。それは単に茶を味わうための作法ではなく、湯と抹茶をどう融合させるかという制御と解放の間にある実践だった。湯を注ぐ強さや速さには細かな調整が求められ、碗の表面に生まれる泡の模様は点てる人の想像力にゆだねられているのである。
楊氏は、私たち一人ひとりのためにセットメニューを注文してくれた。価格は一人前400元(約8000円)以上であり、そのとき思い出したのは、かつて前門外で飲んだ大碗(どんぶり)茶の光景であった。その値段の差は比べるまでもなかった。
運ばれてきたセットには工夫が凝らされていた。「氷皮三色球」はジャスミン餡を包み、口に入れるとすぐに溶けて消える。「叉焼酥」はパイ生地が蝉の羽のように薄く、軽く触れただけでサクサクと崩れた。「スコーン」には自家製の桂花ジャムとローズソルトバターが添えられ、塩味と甘味が重なり合って、味わいに奥行きを与えていた。中でも印象的だったのは「茶香チョコレート」である。外側はカカオ分70%のダークチョコレートで、中にはフリーズドライの抹茶が入っており、噛んだ瞬間に苦味と甘味が同時に広がり、濃縮したコールドブリューを飲んだような余韻を残した。
「私たちは『お茶とスイーツ』という固定概念を打ち破りたいのです」と茶芸師は語った。「このチョコレートも、宋代の『茶果』から発想を得ています。古い時代には茶宴でナッツや蜜漬けが添えられましたが、私たちはそれを現代の方法で作り直しました」。そう言って彼女はショーケースの中に並ぶ宋代の茶器を指さした。
「ご覧ください。この建盞の兎毛文は自然に生まれた模様で、一つとして同じものはありません。お茶の味も同じで、同じ茶葉でもお湯の温度や抽出時間によって、まったく違う体験になるのです」。

ティーブレイクの間、楊氏は璞瑄酒店(ホテル)の立地について話してくれた。中国美術館に隣接し、北京大学紅楼までは徒歩10分ほど。茶軒がある4階は、古い北京の胡同の景色を一望できる絶好の場所である。窓の外には灰色の瓦屋根が幾重にも重なり、時折、自転車に乗った老人が姿を見せる。その光景は、展示ケースに並ぶ宋代の茶器と時空を超えて対話を交わしているかのように思えた。
「ここでは宝和祥の古樹紅茶のポップアップ試飲会を開いたこともあります」と、茶芸師は壁に掛けられた写真を指しながら説明した。「物思いにふけるアーティストを迎えたこともあります。この茶軒はプライバシーが守られていて個室は商談にも使えますが、多くのお客様は窓辺に座り、流れる雲を眺めることを選ばれるのです」。
彼女は少し間を置いて付け加えた。「先月、あるお客様が『三煎目のお茶をここで飲んだとき、ふいに子供の頃、おばあちゃんが琺瑯の茶碗で淹れてくれたジャスミン茶の味を思い出しました』と話されていました」。
こうした心の共鳴こそが、この茶軒の魅力なのだろう。ここでは「標準化された茶文化体験」が提供されるのではなく、茶の香りに包まれながら、それぞれが自分だけの北京の記憶を見つけるのである。胡同に響く呼び声かもしれない。故宮の角楼の下に舞い落ちる銀杏の葉かもしれない。あるいは深夜の残業中、コンビニの灯りの下で口にした、あたたかなティーバッグの味かもしれない。
店を出ると、王府井通りの喧騒が再び押し寄せてきた。だが口に残る茶の香りが私に教えてくれた。真の北京は、故宮の赤い壁と黄色い瓦の中にあると同時に、ゆるやかに時を解きほぐす一杯の茶の中にも生きているのだと。

北京という街は、決して二元論で語れるものではない。摩天楼と四合院が共存し、豆乳とコーヒーが同じ通りで並び立つ。そして私のように歴史に触れたいと願いながら、同時に現代の便利さを手放せない旅人さえも、この街は受け入れてくれる。
璞瑄茶軒は、その北京を象徴する存在である。一杯の茶を飲む時間の中で喧騒を沈め、伝統と現代を和解させ、最後には舌の上に広がる余韻へと昇華させてくれる。
これこそが故郷・北京の最も魅力的なところなのだろう。決して「正しい」ライフスタイルを押しつけず、答えを探すすべての人に、そっと開かれた扉を残してくれる街――それが北京なのだ。
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