中国雲南省・景邁山に位置する惠民鎮では、茶は農作物ではなく、地域社会や経済秩序を支える重要な存在となっている。この町の「老村長茶業有限責任公司」の若き当主・黄進傑氏と語り合う中で、当地の茶産業には、「祖徳」(先祖が積み重ねてきた徳や信用)を核とする独特の経営哲学が息づいていることを実感した。
黄氏によれば、会社名を「老村長」とした理由は二つある。一つは、村長として地域に尽くした祖父を記念するため。もう一つは、自らも地域社会に貢献し続けたいという思いを込めたためである。まさに「祖徳」を出発点としたブランドづくりといえる。
中国の郷土社会では、信頼は長年の人間関係の積み重ねによって形成される。「老村長」の場合、祖父が地域社会に尽くしてきた実績そのものが道徳的資本となり、市場評価に先立つ信頼の裏付けとなっている。そのため、消費者は商品を手に取る前から、ブランドに対して好意や親近感を抱くのである。
競争の激しい茶葉市場において、こうした信頼は、家族の歴史や地域文化と深く結びついている。茶の価値は味わいだけで決まるものではない。そこには、文化的アイデンティティや感情的なつながりも含まれている。先代が築き上げた評判は、ブランドに情緒的価値を与え、市場価値を支える基盤となっているのである。
もっとも、単なる継承だけでは企業の発展は望めない。黄氏は「継承」と「再構築」の両立に挑んでいる。自ら山に入って茶を摘み、製茶工程を厳格に管理する一方で、景邁山の世界遺産登録に伴う観光需要の高まりにも注目し、事業を従来の茶葉生産だけでなく、観光や民宿を組み合わせた複合経営へと発展させた。こうした多角化によってリスクを分散し、ブランドの発信力の向上にもつなげている。
「老村長」は、黄氏と父親による家族経営の企業である。低コストでありながら結束力は強く、先代が築いた産地、製法、人脈を継承しつつ、若い世代ならではの市場感覚と実行力を発揮している。中国の郷土社会では、家族間の強い信頼関係が制度構築のコストを補完し、限られた資源でも迅速な意思決定と経営の安定を可能にしている。
「老村長」が示しているのは、農村発ブランドの成長モデルであり、「祖徳」を核とした経営哲学でもある。先代が築いた信頼を、市場での認知や付加価値へと転換していくことが、郷土企業の競争力につながる。しかし、その強みは自然に維持されるものではない。新たな市場環境の中で絶えず検証し、再構築していくことで、信頼は単なる感情的資産を超え、持続的成長を支える経営力へと昇華していくのである。
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