人脈も資金もなく、言葉も話せなかった一人の起業家が、10年をかけて日本の企業文化を学び、30年の歳月を経て会社を東証プライム市場へと導いた。昭和、平成、令和の時代を通じて着実に発展を遂げ、これまで一度も赤字を計上していない。この道のりは、いかなる国家、社会であっても伝説となりうるであろう。
今号の単独インタビューは、ベース株式会社の中山克成社長を紹介し、創業までの道のりを振り返るとともに、その成長の歩みを考察する。企業の方向性を探るすべての経営者に、大きな示唆を与えるものとなるに違いない。
―― 中山社長は30歳の時、人脈も資金もなく、日本語も話せない状況で来日され、その後10年をかけてベース株式会社を設立されました。その間には大変なご苦労があったと思います。少しご紹介いただけますか。
中山 私は1987年に来日しました。当時の中国は改革開放の初期段階にあり、経済的に余裕のある状況ではありませんでした。中国で働いていた頃の月収は64元、日本円でおよそ1000円ほどでした。ですから、いったん国外に出れば、もはや後戻りはできません。必ず起業して成功してみせるという強い信念をもっていました。
来日当初は、状況は非常に厳しいものでした。言葉も通じず、資金も人脈もありません。そこで私は長期的な計画を立てました。起業に踏み出す前に、まず10年をかけて日本社会を徹底的に理解しようと考えたのです。
この間、アルバイトをしながら就職活動を続けていました。その結果、比較的規模の大きい企業と中小企業の2社の面接試験に進みましたが、最終的に、社員約100人の中小企業を選びました。理由は明確です。大企業では個人が担当できる業務は限定されますが、中小企業であれば、業務全体を幅広く把握できると考えたからです。
入社当初、私は「ここで10年働いた後、独立して起業したい」と社長に率直に伝えました。社長は典型的な日本の経営者で、社員の成長を自分の喜びとし、私を信頼して丁寧に指導してくださいました。10年の間に、さまざまな業務に携わる機会を得ることができました。
入社7年目に大きな転機が訪れました。会社が経営難に直面し、従業員の3分の1を解雇せざるを得なくなったのです。私のような外国人社員は、当然その対象になるだろうと覚悟を決めていました。その後、社長に呼ばれ、人員削減はすでに終えたこと、組織再編を行うことを告げられました。新たに3つのセクションが設けられ、そのうちの一つの責任者を任せたいと言われたのです。これを機に、私は技術職から管理職へと転じました。私の率いるチームは業績を大きく伸ばし、やがて会社は黒字へと回復しました。
10年はあっという間に過ぎ、私は当初の計画通り、独立して起業したい旨を改めて社長に伝えました。社長からは引き止められ、将来的には会社を引き継いで欲しいとまで言われました。しかし、起業はかねてからの夢であり、最終的には社長も理解を示し、応援してくれました。
この10年間を振り返ると、日本で起業するうえで最も重要なのはスピードではなく、焦らず着実に物事を進めることだと実感しています。当時の私は資金も人脈もありませんでしたが、時間だけはありました。会社で経験を一つひとつ積み重ねていったのです。
この歩みは、一見すると遠回りのように見えるかもしれません。しかし、この10年の蓄積こそが、その後の起業と企業経営を支える確かな基盤となりました。とりわけ、日本社会の仕組みや日本の企業文化への理解を深めることができた点は、大きな財産となっています。
―― 御社は長年、無借金経営を貫いておられます。これは成長企業としては極めて稀なことです。多くの経営者は、融資を受けなければ事業拡大は難しいと考えていますが、融資に頼らないことの利点は何でしょうか。
中山 ローンであれ融資であれ、他人からお金を借りて事業を拡大する以上、他人の顔色をうかがう必要があります。
私は無一文で日本に来ましたので、お金がない時の不安は身に染みて理解しています。だからこそ、事業を始めてからは「赤字は絶対に出さない」と自らに課してきました。
会社設立当初、従業員はわずか4人で、利益を確保するのは容易ではありませんでした。赤字を出さないよう、自らの給与を減額した年もありました。私は出発点が低かったこともあり、常に堅実な経営姿勢を貫いてきました。事業を拡大するかどうかは、その企業自身が決めるべきことであり、外部資本に左右されるべきではないと考えています。
当然、発展段階の異なる企業が、資金調達や事業拡大を合理的な戦略として選択する場合もあるでしょう。投資によって急速な成長を遂げている若手企業家も多く、この手法自体に問題があるとは思いませんが、私自身は、これまで培ってきた知識や経験を大事にしたいと考えています。
実はここ数年、日本国内や欧米の機関・企業から何度も提携の打診を受けてきました。当社の安定した収益性とキャッシュフローを活かして統合を進め、運転資金を増やしたいという提案でした。ビジネスの観点から見れば、いずれも非常に魅力的なものでした。もし受け入れていれば、翌日には私の資産は大きく増えていたことでしょう。しかし、私はすべてお断りしました。
ベースは間もなく創業30周年を迎えます。この30年、私たちはほぼ一つの事業に注力してきました。外から見れば、事業領域は限られているように映るかもしれません。しかし、長期的な視点で取り組んできたからこそ、この分野に精通し、30年にわたり成長を続けてくることができたのだと思います。今や数百億円規模の企業へと成長しましたが、富豪になることが目標ではありません。私が目指しているのは、一流の経営者になることです。
―― ベースは年間成長目標を20%に設定し、利益を最優先する企業文化を築いておられます。最近では、ニデックの不正会計問題が財界の注目を集めました。中山社長は、着実に成長目標を達成しながら、どのようにバランスをとっておられるのでしょうか。
中山 企業の発展段階は、人の成長過程に似ています。子どもにはお金を稼ぐ力はありません。まず学び、成長していきます。そして、20歳から30歳頃になると、体力・知力ともに最盛期を迎えます。企業も同じです。
私は会社設立後、最初の10年間を学習期間と位置づけてきました。この段階では、急速な成長を追求するよりも、経験を積み、チームを構築し、市場を理解することが重要です。しかし、20年目、30年目になると、一定の成長を維持することが可能になります。こうした考えのもと、当社では年間およそ20%の成長目標を設定しています。
成長を維持するためには、二つの条件が必要です。第一に、企業が最盛期にあること。第二に、市場規模が十分に大きく、市場占有率が低いことです。当社を例に挙げると、市場全体におけるシェアは極めて限定的ですが、仮に1%のシェアを獲得できれば、それだけでも大きな成果と言えます。巨大な市場においては、市場シェアのわずかな伸びが、企業の10年、あるいは20年にわたる成長を支えるのです。
私はこれまで、現実を見据えた事業計画にこだわってきました。人間が20代、30代の頃の体力を維持できないのと同様に、企業が20%の成長率を維持し続けることは容易ではありません。企業は規模を拡大し、市場シェアが高まるにつれて、成長率は次第に鈍化していきます。
したがって当社では、企業の発展段階と市場環境に即した成長目標を設定してきました。現実を客観的に捉えていれば、成長軌道から外れることはありません。
―― 中山社長は日本中華總商会の例会で講演され、大変好評を博しました。とりわけ、多くの経営者が「芝生戦略」に注目し、大きな示唆を得たと聞いています。この「芝生戦略」はどのようにして生まれたのでしょうか。
中山 この概念は、当社の成長過程と密接に関係しています。大企業は、多数の優秀な人材を擁し、ピラミッド型の組織構造によって成長を維持しています。しかし、少数の優秀な人材に過度に依存すると、彼らの離職が企業に与える影響は非常に大きくなります。
当社は水平展開を選択し、会社を複数の独立した小規模な事業体に分割することで、分散型の利益構造を構築しました。各事業体の標準的な従業員数は25名、営業利益は約1億円です。現在、当社では48の事業体がそれぞれ利益を上げています。
200人、300人の部下を一人で管理するのは容易ではありませんが、20人から30人規模のチームであれば十分に管理できます。我々が必要としているのは、少数のトップマネージャーではなく、チームを率いることのできる中堅リーダーです。そうした人材であれば、比較的容易に発掘し、育成することができます。
私はこれを「芝生戦略」と呼んでいます。芝生の成長の仕方は、樹木とは全く異なります。芝生は背丈こそ高くありませんが、強く、着実に広がっていきます。芝生のもう一つの特徴は、根が地中深くまで張るため、損傷してもすぐに再生する点です。企業も芝生のように、しっかりと根を張りながら広がっていけば、強固な基盤を築くことができます。
社名のベースも、その基盤を意味しています。しっかりと根を張り、基盤を築くことで、安定した成長が可能になるのです。
―― 30年のご経験を踏まえ、経営者にとって最も必要な能力は何だとお考えですか。また、AI時代における企業経営者の最大の課題は何でしょうか。
中山 経営者はまず、幅広い基礎知識を身につけるとともに、ビジネス環境の変化に常に注意を払う必要があります。とりわけ上場企業は、制度や規制、市場ルールが絶えず変化するため、外部環境の変化に敏感でなければなりません。一方で非上場企業は、市場の変化を的確に捉えることがより重要になります。
結局のところ、経営者に最も求められるのは、市場を見極め、理解する力です。市場の動向を把握できなければ、的確な戦略判断を下すことはできません。例えば、当社の場合、受託開発を中心とする従来型のIT開発会社から、お客様の現場ニーズに応えるITサービス企業へと変革を進めています。今後は、単なるシステム開発にとどまらず、顧客の課題を解決する高付加価値のAIサービスが求められる時代になるでしょう。
AI時代の到来は、経営者に新たな課題を突きつけています。現代社会では情報が氾濫し、さまざまなプラットフォームで新たなコンテンツが絶えず生み出されれています。膨大な情報の真偽を見極めたり、それがAIによって生成されたものかどうかを判別することは、ますます難しくなっています。
したがって、AI時代においては、企業経営者には新たな能力、すなわち情報を取捨選択する力が求められます。それこそが、不確実な環境の中で冷静さを保ち、正しい方向性を見極めるための重要な手がかりとなるのです。
可能であれば、中山社長の言葉をすべて書き起こしたいところである。しかし、インタビュー記事の性質上、その一部を選び取らざるを得ない。最後に、私が深い感銘を覚えた言葉を紹介したい。
創業当初、社員がわずか4人だった頃、中山社長は、将来、上場を果たした暁には、中国人社員と日本人社員の比率を同じにしたいと語っていたという。創業時すでに、経営者としての方針と信念は確立されていたのである。そして、その言葉どおり、約束は守られ、実行された。
インタビューの最後に、私は尋ねた。「もし、もう一度起業するとしたら……」中山社長は、迷いなく答えた。「やはりIT業界を選ぶでしょう」と。
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