日本はカロリーベースで約6割の食料を海外からの輸入に依存しており、輸入食品は私たちの食生活に欠かせない存在となっている。近年では、アジア・欧米での日本食人気の高まり、円安、インバウンド需要の拡大を背景に、輸入のみならず日本からの食品輸出も急成長している。食品は日本の貿易産業における重要な商材であると言える。
当協会は、1948年の設立以来、日本の貿易貨物に関する検査・分析・鑑定を行う第三者機関として業務を行ってきた。1994年には食品衛生法に基づく厚生労働大臣指定検査機関として指定を受け、その後の制度改正で登録検査機関となった。30年以上にわたり食品衛生分野の検査・分析を受託している。筆者自身も20年以上、協会で食品検査業務に携わってきた経験から、検査機関の視点で食の輸入と輸出について概説したい。
まずは輸入である。厚生労働省「令和6年度輸入食品監視指導統計」によれば、輸入届出数は約247万件、届出重量は約3,191万トンに上る。これだけの大量の食品はどのように輸入され、その安全性はどのように確保されているのか。
食品衛生法第23条に基づき毎年度策定される「輸入食品監視指導計画」は、輸入される食品、添加物、器具・容器包装及びおもちゃ等の安全性を確保するため、重点的・効率的・効果的な監視指導体制を定めるものである。これは文字通り日本への食品輸入に対する監視=検査の体制を定めるものであるが、近年の大きな特徴は、監視の概念が「輸入時の検査」から「サプライチェーン全体の管理」へと拡張されている点である。食中毒、カビ毒、残留農薬・動物用医薬品などの多くの問題は、生産国の段階で既に生じているケースが多い。このため輸出国と二国間協議や現地調査を行い、HACCPの運用状況や衛生管理の妥当性を確認する仕組みが強化されている。これは、輸入時の検査だけではリスクを十分に抑えられないという国際的な認識の高まりを反映していると言える。
輸入事業者等にとって実務的に最も影響が大きいのは「モニタリング検査」と「検査命令」である。モニタリング検査は検疫所が実施する年間約10万件に上る大規模検査で、アフラトキシンなどのカビ毒や病原微生物、残留農薬を中心に幅広い食品群を対象とする。違反が確認されれば同一国・同一製造者の食品を対象に検査強化され、繰り返し違反が続けば輸入の都度の検査を義務づける「検査命令」が発動される。これは企業にとってリードタイム・コストの両面に重くのしかかる。また、違反率が一定基準(目安として5%)を超える場合には、最終的には「包括的輸入禁止措置」が検討される。特定国・特定品目の市場供給が突然断たれるリスクは、調達戦略における重大な脅威となりうる。
登録検査機関にとってもこの監視指導計画は重要な指針である。主たる業務である検査命令の発動に加え、検疫所が実施するモニタリング検査の分析の多くが検査機関へアウトソーシングされている。検査機関の根本的な使命は、発生する検査ニーズに対し、迅速、正確、かつ安定的に対応することである。日々発生し得る違反事例や検査強化のリスクを早期に察知し、必要となる分析体制を事前に整備することは不可欠である。また、この計画が果たす役割は、検査業務に直接関連する事項にとどまらない。輸入食品衛生管理における国の基本的な方向性を明確に示すことで、行政、輸入者、そして検査機関といった関係者全体が共有すべき「共通の道しるべ」としても機能している。
では、輸入事業者はどのように安全性確保に取り組むべきか。最新の令和7年度監視指導計画では輸入者の責務を明確にし、「自主検査」と「事前確認」を重視している。初回輸入時には自社で規格基準への適合を確認することが求められ、継続輸入の場合でも原材料・製造工程の変更有無を定期的にチェックする必要がある。さらに、ロット・在庫・販売先などの記録保存を行い、違反発生時にはすぐに確認できる体制を整えておくことが求められる。
この輸入検査における「自主検査」という概念は海外の製造事業者、輸出事業者等にはなかなか理解されにくいものであると筆者は常々感じている。検疫所での輸入食品監視業務において「指導検査」とも呼ばれるこの検査は、「規格基準の有無、農薬や添加物等の使用状況及び同種の食品等の法違反情報等を参考として、輸入者の自主的な衛生管理の一環として、国が輸入者に対して定期的な(初回輸入時を含む)実施を指導する検査」とされている。「自主」との響きから、任意・推奨のようなイメージを持たれることが多いが実際は「必須」である。これは輸入食品の安全性確保において輸入者は第一義的な責任者とされており(食品安全基本法第8条)、自らの責任で輸入食品の安全性を確保すること、又そのために知識習得、原材料確認、自主検査等必要な措置を講じることを義務として課している(食品衛生法第3条)ためである。
近年特に注目されているのが「健康食品」領域である。医薬成分の混入や海外由来の未確認成分による健康被害が国内外で報告されており、安全性審査やGMP基準への適合確認が一層厳しくなっている。輸入者には安価で魅力的な製品ほど、原材料、製造方法、製造環境等を詳細に確認する姿勢が求められる。
監視指導計画が我々に示すものは「行政任せ」ではなく、「輸出側と協働し」「輸入者が主体的に管理する」三層構造の管理体制への深化を求めるものと言えよう。この計画は単なる行政文書の一つに過ぎないが、輸入食品に携わる企業にとっては、調達戦略、品質管理、リスク管理、さらには自社ブランドの信頼にも直結する”経営課題”でもある。サプライチェーン全体で取り組むべき共通課題と認識し、必要な強化策を講じることが強く求められている。
次回は品目・検査項目毎に管理手法、違反事例等を解説する。
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