1905年(明治38年)、初代・鈴木松次郎氏が静岡県島田市で茶の仲介業を始めて以来、約120年。自園「カネ松蓬莱園」で土づくりから茶葉栽培、製造、販売まで一貫して行うカネ松製茶は、日本茶業界のなかでも異彩を放つ存在である。会長の鈴木毅志氏は、茶業界の発展に尽力した功績により旭日小綬章を受章。現在四代目社長を務める鈴木裕介氏は「茶畑こそが商品開発部門」と語り、独自性と品質へのこだわりをもとに新たな価値を創出している。海外で抹茶需要が急拡大するなか、伝統と革新の両軸で茶業の未来を切り拓く同社の取り組みについて鈴木社長に伺った。
社長
――貴社はいつ頃から静岡県で茶業を営まれているのでしょうか。
初代鈴木松次郎が明治38年頃(1905年頃)、茶の仲介業を静岡県島田市で始めたのが始まりとなります。その後、時代とともに緑茶の加工、自社茶園での茶の栽培、小売販売、卸販売などを行っていき現在の業態となっております。
――貴社が日本天皇より旭日小綬章を受章されたきっかけについてお聞かせください。
叙勲
弊社会長鈴木毅志は、永年一筋で茶業に携わって参りました。そして今の弊社の基礎となる生産加工製造販売を一括で行えるビジネススタイルを確立してきました。その過程では様々な茶業内外の方とつながりを持ち、業界の発展とともに場面場面で役割を担ってきました。
地元島田市の茶業組合の組合長から始まり、静岡県最大の茶業組合である茶商協同組合の理事長を歴任し、最終的には全国茶商工業協同組合連合会の理事長をつとめました。そのような中で業界への功労が評価され、旭日小綬章を受章するに至ったのではないかと考えています。
鈴木裕介社長(左)と楊多傑編集長(右)
――百年以上続く優れた茶企業として、長く繁栄を維持されている秘訣は何でしょうか。
弊社が永く茶業を続けることができた理由には様々な要因があったのだとは思いますが、一つには以下の様なことが重要であったのではないかと思っています。
カネ松蓬莱園荒茶工場と茶園
①自園の農園「カネ松蓬莱園」の存在
日本人にとってお茶は古くから国民的飲料として親しまれており、その歴史は1000年以上となります。嗜好品としての高級茶だけでなく、むしろいつでもそこにある一般的な飲料として親しまれてきました。
そのような生活の一部に溶け込んでいる、いわば文化となっているものを扱う場合、お客様の信頼を得るには品質を高いレベルで安定させ、安全で信頼のおける商品を提供し続ける必要があります。
弊社では、自社で自園の茶園「カネ松蓬莱園」を持っています。ここでは土づくりから栽培、製造を行っており、カネ松製茶本社と合わせると加工、販売まで一貫して自社で行うことができています。そのため製造販売に関わる全社員が茶栽培の本質である「植物であるお茶と正面から向き合う」事を忘れずにいられます。そして気候や土壌など様々な要件を考えながら安定したお茶を提供する感覚を最も消費者に近い営業担当者まで持つことができています。
お客様は営業担当者の言葉から茶畑の様子を想像し、弊社の茶業に対する姿勢を感じて頂き、信頼していただける要因となっているのではないかと感じています。
また、私は茶畑こそが商品開発部門そのものだと思っております。まず最初にこの畑の中で何ができるかを考え、新商品を思いつき、試作をし、改良を行い、最終製品を完成させるということをよく行っています。
以前は一般的な茶メーカー同様、会議室で会議をしながら商品アイデアを考え、企画をどうするか、味をどうするか、パッケージを目立たせるためにはどうするかなどというプロセスを経て商品を作っていました。しかしそれでは他社との本質的な差別化はできない。弊社にしかない価値のある商品は弊社が土から作った茶葉からしかできないと考えました。弊社の茶畑でできたものは基本世界でここにしかなく、又何も植えられていない土から考えると発想の自由さは無限といえる程広くアイデアも色々湧いてきます。今は土づくりから考え、少量でも良いからここにしか無い唯一の商品を栽培し商品化する事を目指して取り組む案件を増やしています。このような独自性も大事ではないかと思っています。
カネ松本社工場
②お茶製造技術が基本という考え方
弊社では比較的多種のお茶を商品化しており、従来の茶メーカーと比べると商品ラインナップとして柔軟性がある企業だと思います。
一方でその裏付けとして最高級の日本茶を製造する技術がなければ茶メーカーとして方向性がぶれてしまう。我々は基礎となる職人の技術レベルの向上を常に考えています。
例として、静岡県では同一荒茶による仕上げ技術協議会という茶製造技術を競う茶業者向けコンテストがあるのですが、弊社ではその最高位である最高金賞に5名の職人が選ばれています。また2009年には静岡茶品評会にて農林水産大臣賞を取得しています。その他、様々なコンテストに出品し受賞をすることによって職人の技術の向上に努めています。
③時代の品質の安全性を求める変化に対応を心掛けていること
2000年頃より、国内外で食品の品質に対する要求基準が高くなっていきました。
弊社では以下のような取り組みを行ってきました。2000年に業界では初の-30℃の茶専用の冷凍庫を作り、一年中常に新鮮な状態で茶を保存できる環境を整備しました。茶は経年変化を楽しむ飲み物でもあるのですが、日本茶に関しては、お客様は鮮度を最も重要視し摘採時から変化しない香りを求められます。香の変化、水色の変化、滋味の変化を極力無くし常に新茶と同様な状態を保つために一番良い方法を模索しています。
また2001年には有機認定企業の認証を受け、2024年には外国格付表示業者になっています。
さらに、2002年にISO9001の認証を受けており品質マネジメントシステムの本格導入を本社で行っています。20年余のマネジメントシステム運用経験を経て、2023年に認証取得したFSSC22000につながっています。
以上上げたような事は本来茶業者にとって本質的で基本なことなのかもしれませんが、とことんこだわろうとしてきた姿勢が今日につながっているように思います。
荒茶製造
――鈴木社長ご自身は、いつ頃から茶業に携わっておられるのでしょうか。
私は、2001年にカネ松製茶に入社しました。それまでは、株式会社船井総合研究所という企業で主に食品飲食業界を中心にマーケティングコンサルタントとして仕事をしていました。
前職で、今は大企業になった様々な経営者の方と接する中で、多くの勉強させていただきました。基本となる本質をぶらさず、その中で自分に浮かんだポジティブな変化や発想にはプラス発想で精力的に取り組んでいくというマインドは、20代だったその頃出来上がったように思います。
荒茶製造
――茶業の名門である鈴木家では、お子様の教育においてどのような特色がありますか。また、お子様に茶の知識を学ばせることをお考えでしょうか。
名門といえるどうかはわかりませんが、私が生まれる前に亡くなられた曽祖父の代から茶業に携わり、茶づくりをしてきた家系であるので小さな頃から茶に対する教育というか距離は近い中で育ちました。
当然将来、茶業に携わることを前提として育っているので、幼少期からよく祖父には茶畑に連れて行ってもらい土を踏み、虫などで遊び、生葉をベッドにして遊んだり、工場で茶の香りを嗅ぎ、茶を揉むのを見ながら、茶を飲んで過ごしました。
これが教育なのかはわかりませんが、今の自分には茶を知るという意味で大きく人間形成に役に立っているのではないかと思っています。
また、子供に関しては、私の子供はまだとても幼いのですが、茶についての知識経験を積むことはメリット以外ないと思いますので、将来の事等を考えなくとも学んでもらえたらと思っています。
――近年、日本では抹茶の供給不足が問題となっていますが、その要因はどこにあるとお考えですか。
抹茶の供給量の低下についてはいくつかの要因によるものと考えています。
①ここ数年で抹茶の需要は急速に拡大しており、日本の茶業界全体に大きな影響を与えています。一番元になっている原因はインバウンドや輸出など、世界的な抹茶のブームにあるかと思います。
日本に外国から来られる観光客は年々増加しており、各観光地ではおみやげが良く売れているようです。その中で抹茶は日本文化を象徴する代表格のようになっており、小さなパッケージということもあり、持ち運びやすく非常に人気が高いよいうです。旅行者にとっては各地で料理やスイーツで抹茶を体験し、抹茶を知る機会も多くファンになりやすいのかもしれません。
また、世界の多くの国で抹茶トレンドになっているという現状があります。このような抹茶ブームから、多くの海外の飲食チェーンやカフェチェーンなどでも抹茶商品は定番となってきており、需要が益々拡大しています。
インバウンド客が海外に抹茶を広めていってくれているのか、海外の抹茶ブームが先で観光客が抹茶を購入していっているのかはわかりませんが、抹茶の健康イメージやスイーツのイメージから幅広い年代層に受け入れられる世界的商品になっているようです。これは本来日本の茶業者にとってはとてもありがたい事です。
②ただ需要が急速に拡大していく中、供給は全く追いついていないのが現状です。生産者、メーカーだけでなく行政も生産量の拡大という課題に各分野毎に取り組んではいるようですがスピードが追いつきません。
理由としては、一番は茶が時間のかかる農作物だということだと思います。工業製品とは違いお茶を作るには畑を作り、土を作り、苗を植え育てます。新たに茶畑を増やしたり、抹茶に向いた品種に変えようと思えば摘採までに最低5年かかります。
さらに、製造するためには機械設備が必要です。生産現場にも必要ですし、加工現場にも必要です。通常の煎茶の機械設備では抹茶は作れません。今の抹茶ブームの中で機械メーカーにも新規注文が殺到しており、新しい機械を導入するのに数年待ちという状況となっています。
生産現場での農家の高齢化や労働力不足も原因です。他の一次産業同様、茶も離農する生産者が増えています。数十年のなかで後継者ができず、子供たちが他の職業についてしまった生産者にとって、急に抹茶の需要が増えたからといってすぐに後継者ができるわけでもなく、年齢から生産をやめてしまう生産者も多いのが現状です。持続的な生産体制を整えるには生産現場の企業化が求められるのですが、それにも時間が必要です。
以上のような要因から、供給不足が起こっていると思われますが、やはり供給量が増えてくるには数年から5年程度はかかるのではないでしょうか。
――抹茶の供給不足に対応するため、静岡の茶業者や茶農家はどのような取り組みをされているのでしょうか。
茶に携わる者、行政も含め様々な動きはあるようです。しかし、すべて時間は必要というところだと思います。
例えば静岡県各地方自治体などで立ち上がっているオーガニック推進委員会は、SDGSの観点から始まったものではあるのですが、茶園を含む農園の数10パーセントを有機栽培にすることによって、海外輸出に適した農園整備を進める動きをしています。
他にも抹茶の供給不足の状況の中で、粗悪品が出回らないように業界内で、格付けや抹茶の承認についての全国的なルール作りの動きがあるようです。
また、静岡では静岡茶のリブランディングの動きもあります。静岡県が主催する「静岡茶ブランディングプロジェクト」といって、海外へのアピールも見据えて、もう一度静岡茶のリブランディングをする委員会が立ち上がっています。
こうした中でいくつかのプロジェクトには私も参画しておりますし、積極的に供給不足解消の為の取り組みに寄与したいと考えております。
――鈴木社長がお好きな中国銘茶にはどのようなものがありますか。また、それらの印象についてお聞かせください。
中国には日本には比べ物にならないくらい多くの種類の茶があります。元々日本茶は中国から伝わったものでもあり、品種も日本の品種で一番ポピュラーなやぶきた種をはじめ中国品種が主流です。
そのためなのか、私自身も中国茶にとても興味があります。例えば、白毫銀針などは香もよくすっきり飲めるので好きです。
ただ、他にも普洱茶やジャスミン茶、台湾の凍頂烏龍茶などは、華やかな香りが好きで、弊社でも商品開発の一部に取り入れたりしています。中国茶は香りに奥深さがあり、とても勉強になります。
――鈴木家の製品には主にどのような種類がありますか。その中で特に特徴的とお考えのものはどれでしょうか。
弊社では通常の日本煎茶をはじめ、紅茶、ウーロン茶、後発酵茶などを自園農園で栽培して商品化しています。また、抹茶、フレーバーティーなども製品化しており様々なご要望にお応えしております。
弊社商品の中で特徴的といえるものとしては、
あるけっ茶
①あるけっ茶
日本酒の吟醸技術を応用して緑茶を微生物発酵させた新感覚の日本茶です。静岡の日本酒に使われ評価の高い静岡酵母という菌を使用し、緑茶を特許製法で発酵させています。芳醇な香りとほんのり甘い味わいでどんな食事にもあう優しいお茶になっています。
イタリアンシェフとして国内でとても著名なアルケッチャーノ奥田政行シェフとのコラボレーションしシェフのコース料理でも振舞われています。2014年に世界緑茶コンテスト最高金賞を受賞。2016年に没食子酸によって内臓脂肪の減少、メタボ予防が期待できるとして、機能性表示食品として認可されています。リーフ、ティーバッグの他、ペットボトルの展開もしています。
カネ松蓬莱園のお茶
②カネ松蓬莱園
静岡県島田市牧之原台地にある弊社の自園農園「カネ松蓬莱園」で栽培した茶葉のみをつかって製造した深蒸し煎茶です。茶園に香る生葉の香りや、茶葉の持つ甘味を最大限表現するために、肥料から栽培摘採までち密にこだわり、永年の経験やデータをもとに弊社が一番おいしいと思えるお茶に仕上げたものです。静岡県島田市が選定し地域の特産品として認証する「しまだの逸品」に選ばれています。高級煎茶のリーフ茶と、普段使いやすいティーバッグタイプをそろえています。
③大茶園抹茶
弊社の自園農園「カネ松蓬莱園」のある牧之原大茶園――この日本一の大茶園でとれた自社の生葉を使った静岡抹茶です。静岡茶の持つ飲みごたえのある抹茶に仕上がっています。リーフタイプ、オーガニックタイプがあります。
れもん香る緑茶
④れもん香る緑茶
レモンの10倍レモンの香りがするといわれるハーブ「レモンマートル」を自園で栽培し、緑茶の茶葉と一緒に刈り取り、同じ機械で揉みこみ製造します。同じ日に採れた葉同士の相性はとてもよく、すっきりとした茶ができる季節に涼しげなレモンの香りがとてもさわやかに香ります。レモンの果肉も加え、味も夏にぴったりの味になっております。香料等一切使用しない自然なフレーバーティーです。
その他沢山商品はありますが、ここにしかないオリジナル茶をいくつか紹介させていただきました。
――中国の消費者に日本茶を一品おすすめいただくとしたら、どのお茶を選ばれますか。その理由もお聞かせください。
中国にはありとあらゆる茶があります。日本のお茶を紹介するとしたら日本の特徴をよく表しているお茶を選びたいと思います。
①静岡深蒸し煎茶
深蒸しの文化はまだ日本以外ではあまり見かけないのではないでしょうか。特徴としては、日本茶の特徴である甘味や旨味、渋みといった成分を強く押し出され、コクとなって味の濃さを感じることができます。
海外では簡単に理解されるお茶ではないのかもしれませんが、日本では最も好まれ飲まれているお茶ですし、ぜひ紹介したいお茶です。
私は、40年ほど前、カナダにホームステイで滞在したことがあるのですが、その際向こうでお世話になる方に、沢山抹茶を持って行ったことがあります。1980年代でその頃は向こうで抹茶を飲んだことのある人はほとんどおらず、私がその場で一生懸命点てたので喜んでくれましたが、「美味しい」とは言ってもらえず、「面白い」という反応しかありませんでした。明らかに口に合っていないようでした。
しかし、40年たった現在では、世界中の方が抹茶を「美味しい」と言って口にしています。きちんと紹介されれば、深蒸し煎茶も美味しいお茶として認知されていくのではないかと思います。
②抹茶
抹茶についてはすでに十分語り尽くされていると思いますので、ここで改めて詳しく述べることはいたしません。
受賞トロフィー
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