カロリーベースで6割以上を輸入食品に依存している我が国であるが、近年では多くの日本産食品を海外へ輸出する食品輸出国としての側面も強めている。農林水産物・食品の輸出額は年々増加を続け、2024年には初めて1.5兆円を突破し、2025年も過去最高を更新した。世界的な日本食ブームを背景に、牛肉や米、緑茶、ブリ、果物等のMADE IN JAPANブランドが人気で、訪日外国人による日本食の体験や健康志向の高まりも追い風となり、「日本食」という食文化そのものが海外市場を拡大している。
2025年に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、食品産業の「海外から稼ぐ力」の強化が掲げられ、2030年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円とする目標が示された。人口減少に伴い国内市場の縮小が見込まれる中、海外市場の開拓は日本の農業や食品産業にとって重要な成長戦略となっている。しかしながら、食品輸出は決して容易ではない。日本国内で安全かつ適法に製造された食品であっても、輸出先によっては販売できない場合があるからだ。その大きな理由は、食品の安全に関する規制や基準が国ごとに異なることである。
例えば、食品添加物の使用基準や残留農薬基準は国や地域によって大きく異なる。日本では認められている添加物が海外では使用できない場合もあれば、その逆のケースも存在する。また、原材料表示、栄養成分表示、アレルゲン表示などのルールも国ごとに定められており、輸出先に応じた対応が必要となる。さらに近年は、食品がどこで生産され、どのような経路を経て消費者に届けられたかを追跡できるトレーサビリティや、環境への配慮などサステナビリティに関する要求も高まっている。品質の高い製品を作るだけでなく、それを客観的に証明することが国際市場では求められているのである。

こうした場面で重要な役割を果たすのが検査機関である。輸出先国によっては、衛生証明書や放射性物質検査証明書、残留農薬検査報告書などの提出が求められる。これらの証明書は、輸入国の行政当局や取引先に対し、食品の安全性を第三者の立場から示すものであり、円滑な輸出を実現するための重要な要件となっている。
食品輸出において求められるのは、生産者や製造者による「安全です」という説明だけではない。海外の行政機関やバイヤーが求めるのは、科学的データに基づく客観的な証明である。検査機関は、食品中の残留農薬や動物用医薬品、重金属、食品添加物、放射性物質などの化学分析を実施するとともに、食中毒菌や衛生指標菌などの微生物検査を行い、その結果を数値として示す。こうした分析結果は、日本の食品の安全性を世界に伝えるための共通言語とも言える。
また、検査機関の役割は試験室での分析だけにとどまらない。近年では、輸出先国の規制に適合しているかの確認や、事業者への技術的助言、さらには品質保証体制の評価なども重要な業務となっている。食品事故が発生してから対応するのではなく、事前にリスクを把握し、防止することが求められているためである。

その代表例がHACCPに基づく衛生管理である。HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Pointのそれぞれの頭文字をとった略称であり、製造工程ごとに想定される危害要因を分析し、特に重要な管理ポイントを継続的に監視することで食品の安全性を確保する手法である。海外の多くの国で取り入れられており、国際的な安全性の根拠となり得る。検査機関は製品の検査結果だけでなく、重要管理点が適切に設定されているか、温度管理や衛生管理の記録が適切に運用されているかなど、食品が安全に製造される仕組みそのものを第三者として確認し、評価を行う。海外の取引先が重視するのは、「今回の製品が安全だった」という事実だけではなく、「常に安全な製品を供給できる体制が整っているか」という点だからである。
国際取引において最も重要なのは信頼である。日本の食品は高品質で安全という評価を受けている一方、その品質を国際的な基準やデータによって説明できなければ、継続的な取引にはつながらない。検査機関が発行する試験成績書や証明書は、言わば国境を越えて通用する「信頼のパスポート」として機能しているのである。
当協会においても、長年にわたり輸入食品の安全性確保に携わる中で培ってきた分析技術や知見を活かし、食品輸出に関する検査・証明サービスの充実に取り組んでいる。今後、日本の農林水産物・食品の輸出がさらに拡大していく中で、検査機関には単なる分析機関を超え、日本の食の安全と品質を世界へ伝えるパートナーとしての役割がますます期待されていくであろう。
次回はいよいよ最終回として、食を取り巻く環境変化や国際化の進展を踏まえながら、これからの食の安全と検査機関に求められる役割について考え、本連載の結びとしたい。

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