静かな語り部として

本稿の締め切りが迫る頃、筆者は中国・雲南で「茶の旅」に出ていた。移動の合間に本号の校正刷りをあらためて開くと、静かで奥行きのある「祁門紅茶」の香りが立ちのぼるように感じられた。本号で特集した「祁門紅茶」は、単なる茶葉ではない。歴史と現在、中国・安徽の山野と日本の茶人の茶碗とを結ぶ、見えない一本の糸のような存在である。

本誌編集長の楊多傑氏は特集記事『祁門紅茶の魅力』をもって、この味覚の旅の序章とした。氏は風土のみならず、人々の営みにも光を当てている。読み進めるうちに、祁門の霧の中に身を置くかのような感覚を覚える。徐乾氏ら専門家による、無形文化遺産である伝統的技法への緻密な考察や熟成祁門紅茶の科学的分析は、冷静かつ的確に、琥珀色の茶湯の向こうにある時間の重みと職人の技を浮かび上がらせる。これらの論考を通じて、われわれは祁門紅茶を立体的に理解することができる。そこには、感性に訴える美学と理性に裏打ちされた技術がある。こうした視点をさらに広げるうえでも、周静平氏の「高山寺——宇治茶発祥の地」には、ぜひ注目したい。東アジアの茶文化が同根であることを思い起こさせてくれるはずである。

「茶話」、「茶史」の各コーナーでは、これまであまり取り上げられることのなかった分野に光を当てた。眞鍋圭子氏は、オペラ『TEA ~茶は魂の鏡~』の創作の歩みを通して、従来の芸術の枠を超えて古典を表現してきた姿を紹介し、馬場公彦氏の連載『近代日本の中国茶見聞録』は、出版人としての厳格な視点から、歴史文献に刻まれた茶とタバコの記憶を丁寧に再現している。これらは、長い時の流れの中に散在するジグソーパズルのピースのように、東アジアにおける茶文化交流の全体像を少しずつ浮かび上がらせていく。

編集者として最もやりがいを感じるのは、異なる言語や背景を持つ作者たちが、一冊の刊行物の中で共鳴する瞬間に出会うことである。安徽省祁門での茶摘みから、東京の街角にあるモダンな茶室まで。サントリーホールのオペラの舞台から、岩波書店の歴史資料まで、これらすべてが、最後に一杯の温かいお茶へと収束する。

本号の編集にあたっては、編集長と編集主幹のあいだで編集方針をめぐる見解の違いもあった。しかし、一服の茶を囲むひとときのうちに、おのずと折衷の道は見いだされた。万感の思いもまた、一杯の茶が静かにほどいてくれる。

情報が氾濫し、ともすれば表層的な情報に流されがちな時代にあって、『日中茶界』は静かな語り部でありたいと願っている。われわれは喧噪の話題を追い求めるのではなく、読者の皆様に、一葉一葉に込められた物語をじっくりと味わっていただける静かな空間を提供していきたい。第四号の発刊に際し、執筆者の皆様のご尽力と読者の皆様のご支援に心より感謝申し上げたい。「祁門紅茶」が、われわれの心を結ぶ、ささやかでありながら強固な架け橋となることを願ってやまない。