美術館レビュー (5)
「時間」と「生」の目撃者として
――死生観の熟考者 Sook Jin Joの個展

ニューヨークをベースに活動する彫刻家で、アッサムブラージュ、絵画、写真、パフォーマンス、ビデオアート及び建築の領域まで幅広く作品を発表しているシュクジン・ジョ(Sook Jin Jo)の個展が南ソウル市立美術館で開催されている。「過ぎ去る場所」をテーマに、7月29日から11月15日まで開催される。

展示会現場写真 photo by 筆者

作家と筆者 photo by Peter Lewis

80年代に日本での展示会をきっかけにアメリカ行きを決意した彼女は、その後ニューヨークをベースに世界中のアート・プロジェクトにかかわってきた。

韓国ではグループ展に出品して来たが、2007年のアルコ美術館個展以降、本格的な美術館個展は20年ぶりだ。20年ぶりとなる韓国国立美術館での個展は、彼女の多領域にわたる作品を総合的に見せてくれるきっかけになると信じてやまない。

1999年、ニューヨークのロングアイランドにあるソクラテス彫刻公園で発表された「カラーオブライフ(Color of Life)」は、ドラム缶を横に7個並べ、縦に5段にした野外彫刻インスタレーション作品で、鑑賞者が見るだけではなく、ドラム缶に入り込んで体験できる参加型作品だ。約一年間設置されたこの作品は、彼女のインスタレーションのデビュー作とも言えるかもしれない。「死の瞬間」への凝視という作家のコンセプトとはうらはらに、ドラム缶に入っている老若男女は、なぜかみんな表情が朗らかで楽しそうだ。いつかは訪れる「死」があるからこそ、今ここにある「生」を楽しむ必要があるのかもしれない。

Color of Life – performance アトリエ提供
Socrates Sculpture Park, L.I.C., New York 1999

Meditation Space アトリエ提供
logs, aged barn flooring, branches, metal pipe,cement, live trees, bench,
12.5×14 x 13.5 feet, Stone Quarry Hill Art Park, Cazenovia, New York,2000

 

翌2000年、ニューヨークのストンキャリーヒルズのアート公園に設置された「瞑想空間」という作品は、今回の展示会で見ることができる重要な代表作とも言えるだろう。自然の中で雪の季節を含め、四季の移り変わりを経験してきたこの作品は、ニューヨークのスタジオでは、以前【空間の間】として命名していた作品を元にしている。19世紀のベルギー大使館だったオールドハウスを利用した市立美術館の展示会場では、床に鏡面のように映り、合板などの木の平面作品と同じ空間に展示されたことで、新鮮な印象を与えている。アトリエで猫たちと暮らす空間で見る作品とは、相当違って見える。「室外」の森で雨風にさらされる厳しい環境の中でもびくともしない強さと、室内にたたずむ「静謐」は、この作品の不思議な魅力とも言える。「命」を吹き込まれた生命体のような「瞑想空間」。作家は木という素材の属性を「時間」と「生」、そして「死」の証人、あるいは目撃者として捉えている。

彼女の作品の中では「死生観」が思考の中核にある。「生」と「愛」を対象化し、客観化してくれるのは、「死が常にわれわれの日常に深く関わり込んでいるからだ」と作家は述べる。確かに、「死」はすべての人に平等に訪れる。命の終わりに「死」が終着点としてあるのは、その過程で私たちが経験した「生」が「存在」する証拠でもあるのだ。「愛」も少しずつ時間をかけて「死」を迎える。生活の「日常性」によるマンネリ化か「外的要因」によるかは別として、われわれは「終わり」を迎えた状態で「愛が生まれた日々」を振り返り、その存在していた過去を確認する。そして、それをある時点であきらめる。

彼女の作品は、臨時的なインスタレーションと永久的なインスタレーションに区分されるが、中南米のニカラグア、グアテマラ、エルサルバドル、ホンヂュラスに建てたアート・チャープルのプロジェクトは、教会に通う人々に祈りの「場」を作り、聖なる「精神的」な交流の「場」をアート的な空間として生み出した。そして、「心」と「心」、「信仰する魂」の間を行き交う「言葉」と「想い」をつなげる「糸」を作った。

中南米のアート・チャペルプロジェクトを見るため、私は2年前の2024年にエルサルバドルとホンヂュラスを訪れた。雨季の中南米の印象は、半端ない大きさの植物や木の葉っぱ、そして雨しかないが、教会に集まる地元住民と韓国人牧師家族との関係性は、何だか不思議な感じだった。関係性はどうやって形成されたか。

美術館の企画展として2階部分に総合的に展示されている100点近い作品群。ブラジルで現地の子供たちと海の中で作っていくインスタレーションの制作過程や楽器を演奏するパフォーマンスの映像作品、ブラジルの質素なお墓の風景を3年かけて撮った写真作品たち、ドローイング作品等、随分と見ごたえのある展示会だ。一人で静かにじっくり3時間ほど展示会を堪能した。

Below photo by 筆者
200 wood totems, oil, acrylic, ink on cedar wooddimension Variable, 2012-2015

古い洋館の美術館の庭には、真夏の暑い時期にソウルで現地制作した丸太の作品と、グルアップ島で2024年に制作され、撤去されてニュースになった作品「命の色(Color Of Life)」が再制作され、サイズも美術館の庭に合わせて小さく調整された。

入口の左側にこの2作が設置され、通路の右側にはインスタレーション作品とサウンド作品が設置されている。サウンド作品は、コロナ禍に済州島の現代美術館の庭園に設置された作品だ。銃声や小鳥のさえずりが入れ混ざったサウンドが、道路を行き交う車の音と融合している。近所からのクレームで音量を下げたらしい。

「過ぎ去る場所」は「生」と「愛」の生々しい経験なのか、「愛が生まれた日」から「愛が消え去る」プロセスを体験する参加型作品なのか。学校を卒業してはじめて子供たちが社会人になるように、「愛」も卒業したらリスタートできると思いたい。

洪欣

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。