登山に「パートナー」、通院に「付き添い」を雇う ――海外メディアが注目する消費の新潮流
中国の「付き添い経済」が新たな市場を切り開く

山東省の泰山へと続く曲がりくねった石段では、パートナーが道中、写真を撮ったり、話し相手になったりして観光客を楽しませる。大規模病院では、付き添いスタッフが高齢者の手を取り、各診療科へ案内する。家庭では、AIロボットが子どもの習熟度に合わせた英語学習をサポートする……。中国経済の発展に伴い、心の充足を求めるニーズに応える新たなサービス――「付き添い経済」が急成長し、海外からも注目を集めている。

海外メディアは、人による有料の付き添いサービスや、人と機械との情緒的な交流といった新興分野に注目し、「『付き添い経済』は、中国の消費市場の構造転換と高度化を映し出す縮図であり、市場の潜在力が顕在化しつつある。中国が進める関連市場の育成や法整備は、世界に有益な手本を示している」と報じている。

多方面に広がる
「付き添い経済」

「付き添い経済」では、観光や買い物への同行といった従来の対面型サービスだけでなく、技術の進歩を背景に、コンパニオンロボットやAIペットなど、多様な消費形態が生まれている。

ロイター通信は、次のように報じている。「中国の名山・泰山へと続く石段では、観光客が付き添いサービスを予約し、荷物運びや写真撮影を依頼している」「山東省の陳さんは2022年、登山付き添いサービス会社を設立した。当初10人にも満たなかったスタッフは、約370人にまで増えた。昼間のサービス料金は800元(約1万9000円)である」。こうした状況は、この新興業界の活況を如実に物語っている。

AFP通信は、特に需要の大きい受診付き添いサービスに注目し、次のように報じている。「中国では、多くの人が公立病院を利用している。大規模な一流病院には診療科やスタッフが多く、患者は戸惑いがちである。そこで生まれたのが、受診に付き添うサービスであり、好評を博している。専門スタッフが高齢の患者を案内し、迷宮のような院内を移動しながら、受診に必要な各種手続きをサポートする」。

シンガポールの『ザ・ストレーツ・タイムズ』は、新たに登場した犬向けデイケア施設を取り上げ、「施設には遊具やペット用ランニングマシン、音楽設備などが整えられ、成長を続けるペット産業に新たな市場を生み出している」と報じた。同紙は、若い飼い主を中心にペットを家族の一員と考える傾向が強まり、ペットへの支出も増加していることが、デイケアやトリミング、しつけなど、高付加価値サービスの普及を後押ししていると分析している。

「付き添い経済」とは、孤独感を和らげ、感情的な支えや豊かな交流体験を得るために対価を支払う経済活動である。近年、観光地巡りや買い物、火鍋の食事に付き添うといった対面型サービスだけでなく、技術の進歩に伴い、その形態は多様化している。

コンパニオンロボットは、海外のSNSや市場でも話題となっている。世界的なハイテク産業調査会社『トレンドフォース』がこのほど発表したレポートによると、近年、中国のコンパニオンロボットは、生物を模した外観や感情表現、自然な応答など、リアリティーを追求している。多くのメーカーは、コンパニオン機能を基本に、人型の要素を取り入れた製品を開発している。

南アフリカのニュースサイト『インディペンデント・オンライン』は、中国のAIペットが若者にとって新たな「情緒消費」の選択肢になりつつあると報じている。消費者は物質的な満足だけでなく、感情面や心理面での支えも求めている。いつでも心を癒やしてくれ、維持の手間や費用も少ないAIロボットは、中国のみならず、世界各地で多くのユーザーを獲得している。同サイトは、「AIツールの日常的な活用において、中国は世界の先頭を走っている。中国のAIペットブームは、進化を続ける人間とAIの関係に新たな側面をもたらしている」と指摘している。

広がる市場の可能性

「付き添い経済」は投資対象として広く注目を集め、経済価値を生み出すとともに、雇用の受け皿や社会サービスとしての役割も果たしている。

インドのスタートアップ分析企業『Tracxn』の統計によると、中国では「付き添い経済」の関連分野で数百社がすでに資金を調達し、そのうち多くの企業がユニコーン企業へと成長している。

ロイター通信は、中国の「付き添い経済」の市場規模が数百億元(数千億円規模)に達していると報じている。英国の『グローバル・バンキング・アンド・ファイナンス・レビュー』は、この動きについて、中国の都市生活とサービス経済に生じている大きな変化を反映したものだと指摘する。若者の働く場所や時間が変化するなか、「情緒消費」への需要は高まり続けている。

受診付き添いサービスは、「付き添い経済」を構成する重要な市場の一つである。AFP通信は、中国が高齢者向けの「シルバーエコノミー」を積極的に推進しており、高齢者向け商品・サービスの市場規模は、すでに7兆元(約165兆円)に達していると伝えている。

米国の投資情報誌『バロンズ』は、「中国における次の消費の波は、商品よりも、暮らしを温かく快適にし、孤独を癒やすサービスを中心に広がるだろう」「中国の『付き添い経済』は、社会の変化を反映している。次に優位に立つのは、バッグや自動車、家電などのモノを販売する企業ではなく、地域密着型サービスや近距離移動、生活の質の向上に関わるプラットフォームであろう。SNSやEC、地域観光の各種プラットフォーム、ウェルネスサービス事業者、高齢者サービス機関、ギグワーク関連企業などが、この消費転換の波に乗ろうとしている」と論じている。

「付き添い経済」は、新たな産業を切り開くだけでなく、多様で柔軟な働き方を通じて、年齢や経歴の異なる人々に雇用機会をもたらしている。AFP通信は、フリーランスの受診付き添いとして月に約 1万元(約24万円)を稼ぐ36歳の舒さん(仮名)を紹介している。また、ロイター通信は、柔軟な働き方を望む人々が「付き添い経済」の成長を後押ししていると伝えている。

 

市場を開拓し
業界のルールを整備

急成長する「付き添い経済」に対応するため、中国は業界の発展を促す政策を打ち出す一方、監督・管理に関する法規の整備にもいち早く着手し、世界に一つのモデルを示している。

米誌『フォーブス』のウェブサイトは、中国商務部など8部門がこのほど打ち出した「AI+消費」を推進する一連の施策に注目した。AIは今後、電子機器、家電、ウェアラブル端末、小売、観光、飲食、ヘルスケア、高齢者介護、人型ロボットなど、幅広い分野に一層浸透していくとの見方を示している。

同誌は、「AI+消費」の取り組みでは家庭用ロボットが注目され、なかでも高齢者介護や寄り添いサービスが重視されていると指摘する。中国は、人型ロボットを展示の場にとどめず、家庭やオフィス、病院、介護施設へと普及させ、実際の現場で日常生活の補助や付き添い、基本的なサービス業務を担わせることを目指しているという。

『フォーブス』はまた、中国各地でAI・ロボット分野への投資が拡大していると指摘する。中国は、家庭用AI市場が自然に形成されるのを待つのではなく、政策による誘導や実証実験への支援、製品設計の方向づけなどを通じて、一般消費者がAI製品を日常的に活用する環境を整えていると評価している。

7月15日、中国国家インターネット情報弁公室、国家発展改革委員会、工業情報化部、公安部、市場監督管理総局が共同で公布した「人工知能擬人化双方向サービス管理暫定弁法」(以下「弁法」)が、正式に施行された。

米国のテクノロジー専門メディア『テック・タイムズ』は、弁法について、「利用者に寄り添うエージェント」と「利用者の指示を実行するエージェント」との間に明確な境界を設けたものだと説明している。そのうえで、「AIコンパニオンロボットに関する世界初の国家規制であり、世界のAIコンパニオン産業にとって一つの基準となる」と評価している。

「付き添い経済」が急速に発展し、AIを活用した対話型サービスが広がるなか、中国は、擬人化されたAI製品・サービスに対し、利用者のプライバシーと個人情報の保護、過度な依存の防止、技術倫理に関する審査など、明確な規制基準を設けた。

『テック・タイムズ』はさらに、こうした問題は中国だけでなく、世界共通の課題であると指摘する。西側のAIプラットフォームも同様のコンプライアンス上の課題を抱えているが、対話を継続させる仕組みと、過度な依存を防ぐ規制の双方を満たしたプラットフォームは、まだ存在しないという。また、「西側市場では、こうした問題への対応はまだ求められていない」としている。

中国はこうした課題にいち早く対応し、法規制を整備することで、AIを活用した対話型製品・サービスを健全に発展させるための一つの方向性を世界に示している。