2026年の仕事始めの日、貴州の空気にはまだ年末の寒さが残っていたが、中国茅台集団党委員会書記・董事長の陳華はすでに貴陽に姿を見せていた。彼は会議室に入らず、茅台物流園と順豊倉庫センターに向かい、注視していたのは、一見すると「技術的」な問題である「i茅台」(同社の公式直販アプリ)の物流の安定確保である。数日後、人々はこれが普通の視察ではなく、大きな動きの前触れであったことに気づいた。
陳華は決断を下した。53度500mlの飛天茅台酒を、2026年1月1日より「i茅台」で正式に直販を開始とするというものだ。この決定は、元旦の朝に白酒業界全体を眠りから目覚めさせた。
元旦の朝9時、数千万人が同時に「i茅台」に殺到し、1499元(約3万4000円)の飛天茅台酒は瞬く間に完売した。再入荷→即完売→再入荷→再完売というサイクルが数日間続いた。茅台に詳しい人々はすぐに、これは単なる流通ルートの調整ではなく、方向の転換であることに気づいた。
長年にわたり、飛天茅台酒は単なる「酒」ではなかった。むしろ流通手形のような存在であり、幾重にも値上げされ、繰り返し転売される「準金融資産」だった。公定価格は1499元だが、末端価格は常に2000元(約4万5000円)以上、時にはそれ以上で取引されていた。この巨大な価格差がダフ屋を生み増やし、一部の販売代理店に「在庫を抱えて儲ける」という習慣を定着させた。
「i茅台」による飛天茅台酒の直販は、まさにこの仕組みを打破するために導入されたのである。
従来、茅台は実際にどれだけの酒が飲まれたのか、またどれだけの酒が倉庫、ロッカー、地下貯蔵庫にしまい込まれたのかを把握できていなかった。現在、直販サイト、購入制限ルール、実名認証システムを通じて、酒造メーカーたる同社は初めて消費者の輪郭をはっきり把握できるようになった。これは単なる「売り上げの増加」ではなく、長期にわたる価格二重構造への体系的な修正である。
だからこそ、「i茅台」での飛天茅台酒の直販は、業界関係者から茅台の市場改革の「第一弾」と見なされている。
この一歩は生半可ではなかった。白酒業界全体は在庫の叩き売り段階に入り、末端販売の鈍化で、在庫負担が増加したため、飛天茅台酒の卸売価格は一時1700元(約3万8500円)を割り込んだ。もはや1兆元規模(約20兆円前後)に達する企業にとって、希少性や投機的な利ざやへの依存は、長期的に持続可能な方針ではなくなったのである。
だからこそ、陳華は販売代理店懇親会で、耳障りだが現実的な言葉を口にした――「もう寝ていて儲かる時代は終わった」。
規格外品の流通廃止、価格を市場の需給に適切に連動させること、投機防止策の強化は、本質的に販売代理店の役割を再定義するものであった。かつて一部の販売代理店の利益は制度上のひずみによって生ずる価格差に依存していたが、今後は、効率性やサービス力、小売段階での販売力からより多く生み出されるようになる。
実際、この変化はすでに表れ始めている。1499元での販売に追随する代理店も現れ、「1499元がおそらく価格の天井になるだろう」と公言する者も出てきた。高い上乗せ価格が当然とされてきた時代に慣れた者にとっては、多少残酷な現実かもしれないが、業界の健全性という観点から見れば、遅ればせながらの是正とも言える。
より深い変化は、茅台が自らの「属性」を再定義しつつある点にある。大量の買い占めと転売が常態化する中で、茅台は金融商品としての側面が強まってきた。しかし、より多くの人々が適正な価格で購入し、実際に飲むようになれば、茅台は再び消費財としての位置づけを取り戻す。ITを活用した管理の仕組みがここで果たしているのは、その場限りの対処療法ではなく、市場にたまった「バブルを解消する」役割である。
購入制限や供給量の拡大、直販の強化は、茅台を単に「安くする」ためではなく、価格をより持続可能な水準に戻し、消費を倉庫ではなく食卓に戻すためのものだ。これは消費者への明確な回答であると同時に、自社の長期的な成長の在り方を見直す試みでもある。
もちろん、全ての改革には検証の時間が必要だ。価格は本当に安定するのか。流通ルートの分化はどこへ向かうのか。ブランドの希少性は損なわれないのか。これらの問いに用意された正解はない。
しかし、少なくとも一つだけ明確なのは、茅台が自ら「投機」というはしごをはずし、価格差に依存した成長モデルから脱却し、より大きな消費の受け皿に軸足を移そうとしている点だ。これは決してスマートとはいえないが、必要な方向転換である。
飛天茅台酒が神棚から降り、日常の消費の場に戻った時、それはもはや仰ぎ見る象徴ではなく、再び「飲まれる」酒としての役割を担うことになる。茅台にとってそれは地位の低下ではなく、むしろ原点への回帰なのかもしれない。
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