劉 楊 星陽株式会社代表取締役
異文化交流で信頼の架け橋を築く

「すみません、ばたばたしていて。昨日、海外出張から戻ってきたばかりで」。年の瀬も押し迫る師走の穏やかな午後、編集部に、国際教育学者で女性企業家の劉楊氏をお迎えした。その表情からは地球を半周した疲労の色は微塵も感じられない。優しい三日月のような瞳が、初対面の距離感を縮める。それは、国際教育に十数年間携ってきた職業人としての風格であろうか。平凡な家庭に生まれたこの女性は、いかにして言語を武器に世界への扉を開いてきたのだろうか。

外国語の習得が起業を後押し

大学で日本文学を学び、言語には潤滑剤や接着剤のような不思議な力があると感じた彼女は、外資系企業への就職よりも日本への留学を選んだ。歴史と美しい景観を誇る古都・尾道で、日本文学の修士課程に進み日本語の基礎を固める一方、長期休暇や余暇を利用してアルバイトに励んだ。

来日当初から一定の日本語能力を備えていたことに加え、チャレンジ精神が旺盛な彼女は、あえて日本の伝統産業の現場をアルバイト先に選んだ。そうした環境下でこそ、短期間で日本語の語彙を豊かにし、日本のビジネス倫理や生活文化を深く理解できると考えたからである。尾道は小さな町である。勤勉で熱心なこの中国人女性は、すぐに地域で評判になり、スピーチコンテストや作文コンクールでもたびたび賞に輝いた。

2012年、日本語言語学の修士号を取得した彼女は上海へ戻り、アルバイトで貯めたお金を元手に、自身の得意分野を活かして長寧区に「中天外国語トレーニング」を設立した。長寧区は日系企業が最も多く集まる地域で、区内には1500社以上の日系企業が進出し、1万人を超える日本人が居住していた。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」というスタイルが一般的とされる日本では、海外赴任にあたって社員が配偶者や子どもを同伴するケースが多い。企業側も住宅や交通費などを負担し、生活面の不安を取り除いている。そのため、駐在員本人だけでなく、その家族も中国語を学ぶ必要に迫られる。若い彼女は、低コストで自身の能力を活かせるビジネスに大きな自信を抱いていた。「失敗して貯蓄を食いつぶしても、また働けばいい!」。日本留学時代にお世話になった教授や先輩たちが、彼女の起業を知り、自発的に宣伝に協力してくれたという。

ローカライズと多角的アプローチで業界に規範を示す

利用者数が6億人を超える口コミサイト「大衆点評」において、低評価ゼロを誇る中天外国語トレーニングは「長寧区日本語サービス部門第1位」に輝いた。豊田工業管理(中国)、NTT中国、TOTO上海、旭化成中国など、著名な日系企業の中国法人が続々と同校に社員研修を委託しており、中天外国語トレーニングの中国語教育に対する信用性の高さを証明している。

この成功は決して偶然もたらされたものではない。その効果的な教授法は、劉楊氏が長年にわたって積み重ねてきた経験と多元的かつ開放的な思考によるものである。例えば、中国語の「語」の「ü」の発音は日本語にはないため、日本人学習者は正確に発音することができない。劉楊氏は日本語の五十音の「う」の口形で「い」の音を出すよう指導し、この課題を解決した。中天外国語トレーニングでは、学習者の属性に応じてカリキュラムや内容を変えている。「学習+体験+コミュニティ」のアプローチによって、生活の中で生きた中国語が身につくようサポートしている。駐在員の家族向けのクラスでは、外出や買い物、家事、施設のメンテナンスなど、日常生活のシーンに合わせた言語を教えている。

日本は四季がはっきりしており、日本人は季節の移ろいを大切にする。日本の伝統文化である俳句は季語がキーワードになっている。中天外国語トレーニングでは、日本文化を取り入れた授業や課外活動も取り入れている。夏の夜の黄浦江クルーズ、陽澄湖旅行で秋を満喫し、共に餃子や小籠包をつくって新年を迎える。

言語は孤立して存在するものではない。劉楊氏は中国語を専門的に教えるだけでなく、文化交流にも力を入れている。上海語、中国点心、太極拳、書道、茶道、手芸などをカリキュラムに取り入れ、「奥様クラブ」を設立し、駐在員の家族が中国文化を体験できる場を設けている。彼女たちは、そこで新しい友人をつくり、異国での生活に溶け込み、現代中国の姿や文化を日本に伝える。一衣帯水の隣国とはいえ、両国の国民性には大きな違いがある。繰り返し説明しても、日本人学習者に理解されないことも多い。日本人学習者に対しては、日本社会特有の「本音」と「建前」の概念を理解し、行動様式に配慮する必要がある。劉氏は、定期的に行う講師研修においても、これらの点を重視している。

劉楊氏は常に情熱と活力に満ちている。2013年に彼女が主導し、中天外国語トレーニングが自主開発した中国語学習アプリ「美奇美奇」は、画面構成が明瞭で、多角的な学習が可能であり、隙間時間を活用できると好評を博した。さらには、『楽しく学ぶ中国語』『流暢に話す中国語』シリーズ、HSK(中国語能力試験)対策の教材を編纂した。中天外国語トレーニングの学習者のHSK合格率は96.7%に達し、上海の外国語教育機関の先駆けとなり、当時の教材の欠陥を補うものとなった。2024年には、劉氏自身が「人文教育・異文化コミュニケーションに影響を与えた人物」に選ばれ、同校の教材は「バイリンガル教育体系イノベーション・学習評価優秀賞」を受賞した。これまでまったく中国語を学んだことのない、ある日本人学習者は、わずか2カ月でHSK4級試験に合格した。彼は中国語のフードデリバリーシステムで全国から本場の中華料理を取り寄せ、家族を連れて江南を旅し、荒涼とした砂漠を探検した。生活をエンジョイし、高い士気をもって仕事に当たり、コミュニケーションに不自由はない。中天外国語トレーニングでの学びは、彼に貴重な思い出を残してくれた。現在、中天外国語トレーニングは、上海に4つのキャンパスを有し、対面式の個別指導に加えてオンライン授業も行っている。

1000名を超える学習者のうち、6割以上を日本人が占めるという。彼らは駐在を終えて帰国する際、必ず劉氏のもとを訪れ、帰国の挨拶をする。中国語を話し、中国文化を理解することで、さまざまな状況に素早く対応し、問題を適切に処理し、パートナーと信頼関係を築くことが可能になる。こうして無事に駐在の任を終えた彼らは、本社から褒賞を受け、劉氏に感謝の思いを劉氏に伝えている。

再び日本へ、そして世界へ

2020年、世界経済は未曽有のパンデミックによって深刻な影響を受けた。各国が外出や集会を制限する中、個人指導を行う中天外国語トレーニングは、むしろ新規学習者を増やした。対面授業は継続され、オンライン授業の利用者は増え続けた。それ以上に着目すべきは、中天外国語トレーニングが通常通りの授業を行い、日本人学習者に安心感を与えていたことである。この年、劉楊氏は長年離れていた日本に戻り、東京を拠点に、日本語・中国語研修、留学サービス、投資コンサルティングを手がける星陽株式会社を設立した。

異文化交流の分野で二十年近く働いてきた彼女は、仕事を通じて伴侶と出逢い、仕事と家庭を両立させる母でもある。上海と東京の事業は順調に進み、富を蓄え社会的使命を果たした劉氏は、いま再び、新たな夢を実現しようとしている。現在、米国カリフォルニア州に、来春の開校を目指し、新たな多言語教育機関を建設中である。ここでは中国語、日本語、英語の三言語のカリキュラムを提供し、各国の異なる文化を学び合う。視野を広げたいと願う若者に留学の機会を提供する。

言語は橋を架け、コミュニケーションは誤解を解き、交流は衝突を防ぐ。中国語教育の最前線に立ち続けてきた劉氏は、中日関係の寒暖を肌で感じながら、民間交流が対立を和らげ、経済交流が相互理解を深めていく数々の場面を目にしてきた。劉氏は知っている。氷河期の時代でさえ、東半球と西半球を結んでいたのは海水ではなく、生きとし生ける者の間に生まれる真摯な感情であり、言語を通じて伝えられる理解と信頼であったということを。

取材後記

三角形はもっとも安定した構造体である。劉楊氏は東西両半球の三カ国を往来し、太平洋上に緻密なネットワークを構築してきた。勇敢で揺るぎない信念をもつ彼女の成功を疑う者はいない。彼女の新たな物語に期待したい!