日本経済新聞が2025年12月に実施した「社長100人アンケート」は、現在の日中関係をどう受け止めているのかという、日本企業の実際の感覚を知るうえで、有用な資料である。注目すべき点は、政治情勢が変化する中でも、日本の経済界が感情的な反応ではなく、経営の現実に即した判断を行っていることが、数字として示されている点にある。
調査結果によれば、回答企業の67.3%が、日中関係の悪化は経営に「マイナス」あるいは「どちらかといえばマイナス」の影響を与えていると認識している。この数字は、企業が外部環境の変化に強い関心を払い、その影響を慎重に見極めていることを端的に示している。日中関係は外交レベルの抽象的な問題にとどまらず、市場予測、投資動向、経営マインドを通じて、企業経営に確実に影響を及ぼしている。
しかし、こうした懸念と並行して、もう一つの注目すべき結果が示されている。中国戦略に関する設問では、85.6%の企業が「見直ない」と回答した。一見すると、日中関係の悪化を懸念しながら戦略を維持する姿勢は矛盾しているようにも映る。しかし、企業経営の観点から見れば、これはむしろ現状を冷静に見極めた判断だと言える。
リスク管理の面でも、日本企業が全く対策を取っていないわけではない。アンケートでは、従業員の中国出張について、「調整する」または「調整を検討する」と回答した企業が18.9%に達した。実際、一部の大手製造業では「緊急時以外は出張を一時的に見合わせる」といった対応をすでに実施している。これは、中国市場との関係を維持しつつも、従業員の安全確保や突発的リスクへの備えとして、不確実性の影響を抑えるための慎重な管理策を講じていることを示している。
しかし、こうした対応は主に日常の運営レベルにとどまり、企業戦略そのものを見直す動きではない。多くの日本企業にとって、中国は単なる重要市場にとどまらず、長年かけて築いてきた事業構造や顧客基盤の一部を成している。そのため、短期間で中国戦略を大きく変更することは、多大なコストと新たな不確実性を伴う。結果として、戦略を動かすリスクの方が、現行の事業体制を維持するリスクを上回ると判断されているのである。
清水建設の新村達也社長の発言は、こうした現実的な判断を端的に示している。新村氏は、中国で展開する同社の事業は主に日系企業向けであり、日系企業の中国における設備投資意欲が低下すれば、自社の営業収入に直結すると指摘した。ここで示されている懸念は、単に中国という国に固有のリスクではない。投資意欲の変化が取引先や受注環境を通じて波及し、企業収益に連鎖的な影響を及ぼす点にこそ、本質がある。
よりマクロな視点から見ると、このアンケートは、日本の経済界が、政治環境の変化とビジネスの現実との間で、どのようにバランスを取ろうとしているかを映し出している。企業は、地政学的な不確実性を無視することはできない。しかし同時に、市場の規模や産業構造、長年にわたる事業配置によって形づくられてきた客観的な制約とも向き合わざるを得ない。
したがって、「当面は中国戦略を見直さない」という姿勢は、リスクを軽視していることを意味するものではない。むしろ、コストや事業構造、現実的な制約を踏まえたうえでの慎重な判断と捉えるべきだろう。この選択は、企業が外部環境の変化を十分に警戒しつつ、複雑な状況下でも経営の安定を維持しようとしていることを示している。
企業の安全確保と経済の活力維持をいかに両立させるかは、企業にとっての経営課題であると同時に、政府の政策レベルでも真剣に検討されるべき問題である。このアンケート結果は、その難しいバランスをめぐって、日本企業の経営者が現実を踏まえた判断を下していることを示している。
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