なぜ森清化工は73年連続で黒字なのか

「失われた30年」の中にある日本経済において、数十年間にわたり黒字を維持する企業は、もはや「経営の怪物」と呼ぶにふさわしい。Oリング専門の中小企業である株式会社森清化工は、創業から73年間連続で黒字を続け、マクロ経済の常識に挑む存在のように見える。

しかし、経営界の奇跡は往々にして奇跡ではなく、恒常的な黒字を志向する経営の論理的帰結である。森清化工のビジネスモデルは、日本製造業が衰退し、グローバルサプライチェーンが揺れ動く時代にあって、なぜ安定した収益を上げ続けることができたのか。その背景にある経営の秘訣は、四つの側面から分析する価値がある。

一、国内製造の堅持:
「品質が命」という経営哲学を貫く

製造の外注や海外生産が主流となる中、森清化工は全工程を外部に委ねず、千葉工場内で完結させる方針を貫いている。一般には「Made in Japanへのこだわり」と語られるが、経営の視点では、これこそが同社が安定して黒字を続けてきた最大の理由である。

同社のOリングはわずかな不具合が事故や巨額損害につながりかねない分野で使われる製品だ。航空機や自動車、精密機器に用いられ、ガス漏れやオイル漏れが発生すれば、その影響は深刻だ。この業界では、品質はコストではなく、「リスクと信用を守る最低条件」なのである。

多くの部品メーカーが「品質管理」をサプライヤーまかせにする中、森清化工はあえて全工程を自社で管理する道を選んだ。その結果、工程のトレース(追跡)と責任が明確となり、品質も管理できるようになった。「製品の欠陥が致命傷になりかねない」業界において、安定した品質こそが、最終的に最も大きな利益を生む。事故対応に追われる他社とが対照的に、徹底した内製化によってリスクを抑え、強固な利益基盤を築いている。

 

二、JISは制約ではなく「収益ツール」
――標準化経営の知恵

多くの企業がJISなどの規格を足かせと捉える中、森清化工はそれを経営の武器としてきた。これが、同社が長期にわたり黒字を維持してきた第二の主要因である。同社は基準を守るだけでなく、「基準を活用して利益を上げる」経営を実践している。

1.JISの厳格さを品質保証の防塁として活用する

規格を「面倒な制約」と捉える向きがある一方で、玄人は「厳格な基準=高い信頼=少ないアフターサービス=強い価格決定力」と理解している。森清化工は材料選定から製品サイズまで常にJISに準拠し、低品質な競合を自然に排除している。

2.JISを起点に自社基準を拡張する

JISは重要な前提だが、顧客ニーズをすべて満たすものではない。同社は、JISを起点に自社基準を拡張し、100万種類を超える製品サイズを標準化生産で実現した。一般的な「カスタマイズ=小ロット=赤字」とは異なり、「拡張=標準化=利益」という構造を築いている。

3.定量検査の標準化で不良品の無駄を断つ

標準化された定量検査により、不良品率は従来の4分の1に低下した。不良品という「見えないコスト」を数値と基準で管理し、主観的な判断を排除したことで、生産改善が加速し、コストは大幅に削減された。この「JIS→自社基準→数値化→コスト削減」という一貫した品質管理システムこそが、森清化工の黒字経営を支える第二の柱である。

 

三、組織管理:
「全員代替可能型」の強靭な組織

日本の中小企業では、技能や職務が「特定の個人」に依存し、ベテラン社員の不在が業務停滞を招く例が少なくない。森清化工の三つ目の経営の要諦は、「属人型組織」を排し、「全員代替可能型組織」を構築していることだ。

同社は、三人責任制を導入し、各部門で役割を補完し合いながらローテーションすることで、全員が複数の工程を理解する体制を整えている。経営陣も現場に常駐し、迅速な意思疎通を可能にしている。

この仕組みにより、パンデミックや災害、人材の流動、サプライチェーンの混乱が生じても経営は停滞しない。日本の伝統的な「家族経営」の強みと「属人化を排する」現代的な制度運営を融合させた点こそが、混乱の時代に中小企業が生き残る鍵である。

 

四、在庫はコストではなくサービス力
——日本式「在庫経営の道」

森清化工は「品揃え・即納」を「社訓」としている。控えめなスローガンに見えるが、ここにビジネスの本質が隠されている。「最も早く納品できる者が最も利益を得る」という考え方である。

同社は「在庫」をコストではなく、市場競争における武器へ転換してきた。子ども用長靴を製造していた時代から「予測+予備在庫」のという仕組みを構築し、Oリング製造開始後はこれをさらに拡大した。豊富な在庫で顧客を絶対に待たせない。「待たせない=信頼を勝ち取る=リピーターが増える=利益」である。

他社が「在庫コスト」を理由に慎重姿勢をとる中、森清化工は市場の綿密な観察、正確な需要予測、高効率の内製化生産を組み合わせ、在庫を顧客囲い込みの仕組みへと変えた。

儲けたいなら、先行投資を惜しまないこと、ただし「乗数効果」が期待できる分野に投資せよ、というのが黒字経営の根本論理の一つだ。

森清化工は大企業ではないが、「標準化、品質第一主義、組織の強靭性、サービス精神、恒常経営志向」という日本の製造業の本来の力を体現している。日本経済に未来がないわけではない。ただ、その未来は、こうした堅実で知恵ある中小企業の中にこそ潜んでいる。

73年間、一度も赤字を出していないことは「奇跡」ではない。それは「常識を極限まで追求し、努力の継続を制度化する」という、時代に埋もれた日本式経営哲学の当然の帰結である。

こうした企業が存在し続ける限り、「Made in Japan」の輝きは決して色あせることはないだろう。