中国の紅茶の製法は、福建省武夷山の桐木関に起源を持ち、その後、全国へと広まっていった。1950年代には、その生産地域は安徽省、湖南省、湖北省、福建省、江西省、雲南省、四川省、広東省、貴州省、浙江省、江蘇省、そして台湾を含む計12の地域にまで拡大していた。製法によって分類すると、紅茶は小種紅茶、工夫紅茶、紅砕茶の3種類に大別される。
小種紅茶の代表は、言うまでもなく桐木関の正山小種である。一方、工夫紅茶の中で最も名高いのは、安徽省祁門の工夫紅茶である。正山小種は紅茶の起源として知られ、その歴史的地位と影響力は揺るぎない。これに対し、祁門工夫紅茶は、鄧小平による「祁門の紅茶は世界に名高い」との評価にも象徴されるように、工夫茶界の頂点に位置付けられている。筆者は『日中茶界』第4号において、「祁門紅茶」を特集として取り上げた。本稿では、この機会に日中両国の茶愛好家の方々とともに、祁門紅茶が持つ三つの魅力について考えてみたい。
楊多傑氏所蔵 1950年代の祁紅宣伝資料
悠久の歴史
祁門紅茶の第一の魅力は、その長い歴史にある。祁門紅茶の起源については、二つの説がある。王鎮恒、王広智著『中国名茶誌』によれば、1875年が祁門紅茶の始まりとされる。その年は、清の光緒元年にあたり、安徽省祁門における紅茶生産の出発点とも位置付けられている。
黟県出身の余干臣は、福建での官職を解かれて帰郷したが、福建で長年官職にあった経験から、紅茶が海外で高い需要を持ち、そこに大きなビジネスチャンスがあることを熟知していた。そこで彼は至徳県(現在の東至県)堯渡街に紅茶荘を設立し、福建紅茶の製法を取り入れて、安徽で紅茶の製造を始めた。もっとも、『中国名茶誌』はこの記述の出典を明記していないため、ひとまず一つの説として位置づけておく。
筆者が資料を調査していた際、『豫鄂皖贛四省農村経済調査報告』第10号『祁門紅茶の生産・製造および販売』と題する報告書を発見した。本報告書は民国25年(1936年)に完成したもので、中国農民銀行の委託を受け、金陵大学(現・南京大学)農学院農業経済学部が調査・編纂したものであり、祁門紅茶の歴史を研究する上で重要な資料である。
楊多傑氏所蔵 1970年代の祁紅宣伝資料
その中で、祁門紅茶の起源について次のように記されている。
「光緒二年(1876年)、黟県の茶商である余某は、祁門は土地が広く人口が少なく、茶価が安いことに着目し、秋浦(現在の至徳)から祁門に赴き、紅茶の製造方法を伝授し、茶農家にその製造を勧めた」。
このことから、『祁門紅茶の生産・製造および販売』と『中国名茶誌』の記述はおおむね一致していることが分かる。余某が官吏であったのか商人であったのかは重要ではない。いずれにせよ、彼が祁門紅茶の創始者であると考えられる。
一方、別の説では、祁門紅茶の創始者は胡元龍であるとされている。1916年刊行の『農商公報』第2号には以下のように記されている。
「安徽における紅茶の改良は、祁(門)と建(徳)に端を発する。そして祁と建に紅茶が生まれたのは、実のところ胡元龍(別名胡仰儒)に始まる。胡元龍は祁門南郷貴渓の出身で、咸豊年間に貴渓において荒山五千余畝(約33.3平方キロメートル)を開墾し、茶樹を植えた。光緒元年(1875年)から二年(1876年)にかけて、緑茶の販路が伸び悩んだことを受け、紅茶の製造法を調査し、まず資金6万元を投じて日順茶廠を設立し、紅茶の生産へと転じた。その後、自ら各郷へ赴いて茶園主らを指導し、約40年にわたって尽力した」。
文中の胡元龍は、熟練の茶商である。彼は咸豊年間から茶業を始め、光緒年間には情勢の変化に応じて方針を転換し、その結果として祁門紅茶が誕生した。2024年春の終わり、筆者は安徽省祁門県平里鎮貴渓村文橋組にある胡元龍の旧居を訪ねた。旧居は煉瓦と木材で造られた二階建ての徽派建築で、建物は高く、壁は厚く、当時の胡家が非常に裕福であったことがうかがえた。
実のところ、祁門紅茶の二つの起源説は必ずしも矛盾するものではない。茶を学ぶ者として、現象の背後にある本質を見極めれば、多くの示唆が得られるはずである。
第一に、両者の記録時期は近く、いずれも光緒元年(1875年)前後に集中している。したがって、祁門紅茶は1870年代半ばに生まれたとみるのが妥当である。
第二に、両者の記録に見られる製法は類似しており、いずれも祁門独自に考案されたものではなく、福建省から伝来したものである。このことから、祁門紅茶が福建の「閩紅工夫茶」から直接的な影響を受けたと推測できる。余干臣であれ胡元龍であれ、誰を創始者とするかは本質的な問題ではない。むしろ、福建紅茶の販路が拡大するなかで、安徽出身の見識ある者たちが紅茶ビジネスの可能性に着目したと見るべきであろう。彼らは清の光緒年間、ついに「緑茶から紅茶への転換」という大きな潮流を生み出したのである。
筆者が祁紅博物館の審査室で陸国富氏、孫西傑氏とともに高品質の祁門紅茶を審査する様子
独特の香り
祁門紅茶の第二の魅力は、その独特の香りにある。『祁門紅茶の生産・製造および販売』によれば、祁門紅茶はかつて英国、米国、フランス、ロシア、ドイツ、カナダ、インド、さらにはアフリカやオーストラリアにまで広く輸出されていた。
なかでも祁門紅茶を最も熱心に受け入れたのが英国であった。民国21年(1932年)、祁門紅茶の総輸出量は41,130.7担(約205.65トン)であったが、そのうち英国向けは25,625.31担(約128.12トン)に達し、全体の約6割を占めた。民国23年(1934年)には総輸出量が26,578.56担(約132.89トン)に減少したものの、英国向けは依然として21,529.96担(約107.64トン)に及び、全体の約8割を占めた。
英国人がお茶をこよなく愛することは世界的に有名であり、「午後4時の鐘が鳴ると、世界は一瞬にしてお茶のために止まる」とも言われるように、その嗜好の強さは際立っている。では、お茶を愛し、お茶を知る英国人は、なぜこれほどまでに祁門紅茶に魅了されるのだろうか。
第一に、その高い香りである。味わいに先立ち、香りは人を惹きつけ、直接的な刺激と愉悦をもたらす。祁門紅茶は、その鋭く際立った香りで知られている。
筆者は、かつて祁紅博物館の審査室において、省級無形文化遺産「祁門紅茶製造技術」の代表的継承者である陸国富先生、安徽省茶業協会副会長の孫西傑氏とともに、多くの高品質な祁門工夫紅茶を審査し、「祁門香」への理解を一層深めた。
祁門工夫茶の香りは、花のようで花ではなく、蜜のようで蜜ではなく、砂糖のようで砂糖でもない。言葉では言い尽くせないほど複雑で、豊かで美しく、一度味わえば忘れがたい。まさにこの香りこそが、「祁門香」と称されるゆえんである。
香りの話はこれくらいにして、次は外観について述べよう。上質な祁門工夫紅茶は、毛茶(粗茶)に加工された後、初抖(初ふるい)、分篩(ふるい分け)、打袋(袋叩き)、毛抖・毛撩(粗選)、浄抖・浄撩(選別)、挫脚、風選(風力選別)、撼篩(振動選別)、飄篩(浮遊選別)、手選別、ブレンド、補火(仕上げ焙煎)、均堆(均一化)、箱詰めなど、計16の工程を経て仕上げられる。まさに祁門工夫の「工夫」の二文字を体現した製法である。
そのため、上質な祁門工夫紅茶の完成品は白毫が多く、芽の割合は40%前後にも達し、茶葉は細く締まり、色つやが良く、茎や異物はほとんど含まれていない。葉が非常に細く短いため、多くの人が祁門紅茶を「刻み紅茶」だと誤解することがあるが、実際には、中国工夫紅茶の最高峰の逸品なのである。このような茶葉の形状は、茶に含まれる成分を迅速かつ十分に抽出させ、ヨーロッパで一般的な一回抽出式の紅茶の淹れ方と非常に相性が良い。祁門紅茶の鮮やかで味わい深い茶湯は、CTC紅茶(ティーバッグ用のすり潰した茶葉)とは比べものにならない。
筆者は、1970年代に中国土産畜産輸出入公司上海市茶葉分公司が制作した「祁門紅茶」の宣伝チラシを1枚所蔵している。表面は写真、裏面には説明文が掲載されている。そこには次のように記されている。
「祁門紅茶は、その独特の香りと味わいで世界的に知られている……そのまま味わうことで、独自の風味を最も堪能できる」。
チラシにあるように、甘いものを好む西洋の人々であっても、祁門紅茶を飲む際には、その繊細でやわらかい甘みを損なわないよう、砂糖もミルクも一切加えない。祁門紅茶が、ヨーロッパの食卓でいかに大切に扱われてきたかがうかがえる。

厳格な等級制度
祁門紅茶の第三の魅力は、その厳格な等級(グレード)制度にある。陸国富先生は、この分野を代表する専門家である。1980年代初頭に学校を卒業後、祁門茶工場に技術員として配属されて以来、長年にわたり祁門紅茶に携わってきた。
陸先生は旧祁門茶工場が最も繁栄していた時代を現場で経験し、祁門紅茶の半世紀近くにおよぶ盛衰を見てきた人物である。まさに祁門紅茶の製造技術を体現する存在と言える。
陸先生はかつて、私に貴重な品を贈ってくださった。それは20年以上大切に保管されてきた祁門紅茶の標準サンプル一式である。このサンプルは金属製の缶に収められており、高さ約7センチ、蓋の直径は約9センチ。ラベルも良好な状態で残っており、「安徽省祁門茶廠 サンプル茶ラベル」と記され、年号は2002年、等級は特茗、一級、五級となっている。
本物の祁門工夫紅茶には、いくつの等級があるのだろうか。清末から民国時代にかけては統一された等級制度がなく、各茶商はそれぞれ独自の基準で呼び分けていた。新中国成立後、祁門紅茶の等級基準は徐々に整備されていく。祁門工夫紅茶の等級区分は、基本的には国際的な紅茶の等級区分に準じつつ、より細かく区分されている。現在の『祁門紅茶』地方標準では、祁門紅茶は特茗、特級、一級、二級、三級、四級、五級の計7等級に分けられている。それぞれの特徴を見ていこう。
特茗と特級は、いずれも祁門工夫紅茶の最上位に位置する等級であり、国際的な紅茶のSFTGFOP(スペシャル・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー)およびTGFOP(ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコー)に相当する。これらの祁門工夫紅茶は、製造工程において香りと味わいのバランスが良く整えられており、「香り高く、形が美しく、味わいがまろやかで、色つやが良い」という四つの特徴を備えている。
一級から三級の祁門工夫紅茶は、品質としてはFOP(フラワリー・オレンジ・ペコー)からBOP(ブロークン・オレンジ・ペコー)の間に位置し、茶湯は甘くまろやかで、祁門特有の香りもはっきりと感じられる。
四級と五級はいずれも量産向けの等級で、主に輸出用として扱われている。かつては為替の影響もあり、海外でも中国茶が広く楽しまれていたが、近年はコストの上昇に伴い、海外での消費は下位等級へと移行している。現在では、四級や五級の祁門工夫紅茶が、海外の茶店では最上位の商品として扱われることも少なくない。
多くの人々は、スリランカ産の紅茶に親しみ、その味わいを楽しんでいる。決して経済的な理由だけではなく、お茶に対する価値観や嗜好の違いによるものとも言えるだろう。そうした中で、中国ではお茶をより深く味わい、日々の暮らしの中で楽しむ文化が育まれてきた。
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